カハタレ日誌

カハタレの稽古の様子

犬、呪わないで(戯曲)

「犬、呪わないで」

 

舞台位置関係

下手から

山下、芽衣子、ちゃぶ台、岩村、あや。

それぞれのセリフ始まる前にゆっくり登場して定位置に着く。

岩村と山下はスタバのカップを持っていて、芽衣子はカッターと呪いの人形、あやは湯呑みをずっと持ってる。

セリフがなくなったらはける。

 

   舞台明転

 

   岩村、入ってきて、犬の話をしている。

   良き頃合いに山下がゆっくり入ってくる。

 

岩村  犬、知ってる?犬、飼ってるんだけど、可愛いよ、犬、三郎って名前なんだけど、チワワなんだけど、白い、ちっちゃい、犬、飼うまでは、全然興味なかったんだけど、サブちゃん、飛びかかってくるからね、玄関開けると、はっはっはっは来るからね、もうさ、超ラブリーよ、ちょっと臭いけど、ちょっとなんかドッグフードの匂いと電車の椅子みたいな生地のソファが湿気てカビくさくなったみたいな臭いと、口の臭さと皮膚の匂いとが混ざった感じの臭さあるんだけど、その臭さも含めて超ラブリーよ、もう気分もラブリーだもん、気分も世界もラブリーだもん、犬いると、犬、いいよ、犬、飼いなよ、俺、サブちゃんの話してるだけで、ちょっと元気でるもん、にやけてきてるもの、今、あ、そう、あとね、犬ね、あったかいから、どこ触ってもあったかいから、特に腹、あ、でも足もいいよ、コリコリしてて、でもやっぱ腹ね、フニフニしてて、いやー、すごいよ、犬、あ、犬じゃない?、正直この世の中で、って言うかこの世界で、一番あったかいものって犬じゃない?って今思ったんだけど、どうかな?

 

山下  うーん、どうだろう、

岩村  って言うか、むしろ、世の中にあるあったかいものって実は犬だけなんじゃない、

山下  や、だって、肉まんとか、

岩村  いや、わかるよ、肉まんとかあったかいのわかるよ、だけど本当は実のところ肉まんは冷たいんじゃないかね、って、カモフラージュのあったかさってのがあって、犬の腹のみが真のあったかさなのではなかろうか、って、

山下  うーん、ホットミルクとか、

岩村  それはもう、熱いじゃん、ホットじゃん、あったかくないじゃん、

山下  あったかいけどなあ、

岩村  いや、わかるよ、肉まんもホットミルクもホットレモンもホットコーヒーもあったかいのわかるよ、

山下  あと、コタツとか、

岩村  そう、コタツもね、あったかいよね、電気毛布も電気ストーブもガスストーブも、

山下  あと、お湯ね、

岩村  そうだね、お湯ね、あー、お湯、お湯かー、お湯、は、あったかいわ、むしろ犬よりお湯の方があったかいかもしれない。

山下  ごめん何の話?

岩村  温泉行きたいね、

山下  行きたー。

 

   スタバのコーヒー飲む

 

岩村  犬、呪われてんだ。

山下  は?

岩村  犬、サブちゃん、呪われてんだ。

山下  え?は?呪われてるって何?

岩村  最近鳴き声に元気がないんだ。

山下  え?は?呪われてるって誰に?

岩村  妻に。

山下  妻に?

岩村  温泉行きてー、

山下  温泉は行きたいけど、

岩村  山ちゃんが温泉なんて言うから温泉行きたくなっちゃったじゃない。

山下  温泉はイワムラーが言い出したんだよ、急に。

岩村  あ、そうか、山ちゃんはお湯って言っただけか?温泉とか行く?

山下  うーん、行きたいんだけどね、ほら、妻がね、あんまり好きじゃなくてね、

岩村  あー、妻ね、温泉好きじゃない妻っているよねー、

山下  温泉というより旅行が好きじゃないんだよね、

岩村  あー、いるいる、旅行が好きじゃない妻っているよねー、

山下  だからむしろ、どこでもドアが欲しい、犬よりもむしろどこでもドアが欲しい。

岩村  どこでもドア?

山下  どこでもドアでドアトゥドアで温泉行きたい。

岩村  めっちゃお湯好きじゃん。

山下  旅行なんて本当良いことないよ。

岩村  あー、それかも。

山下  え、何が?

岩村  犬、呪われてる理由それかも。

山下  ん、犬、呪われてる理由それ、ってどれ?

岩村  旅行旅行、

山下  あー、えっ、そもそも犬、呪われてるってどういうこと?

岩村  見ちゃったんだよね、

山下  うん、

岩村  夜、俺いつも十時に寝るんだけど、いつも妻は俺より寝るの遅くて、いつ寝てるのか俺先に寝ちゃってるからわかんないんだけれども、夜、トイレ行きたくなって目覚めて、あ、夜間尿ってあれらしいよ、一回でも寝てる時目覚めてトイレ行ったら夜間尿なんだって、ラジオで言ってた、膀胱衰えてるんだって、いや、最近膀胱ひどくてさ、尿漏れとか、ある?

山下  尿漏れはないよ、

岩村  えー、何、トレーニングとかしてるの?

山下  や、尿漏れの話どうでもいいよ、

岩村  お前尿漏れの話結構大事だぞ、

山下  犬、呪われてる話聞かせて。

岩村  あ、そうそう、サブちゃん、かわいそうに、サブちゃん、なんか見ちゃったんだよね、夜間尿で起きた時、妻、犬、呪ってるの、なんか微かに音聞こえてきてて、隣の部屋から、隣の部屋、あれなんだけど、なんて言うの、横にスライドさせるドア、なんて言うの?

山下  ふすま?

岩村  ふすま、なのかな?、ふすま、さ、ちょっとさ、そーっとさ、開けてさ、開けたら妻、いてさ、

 

   芽衣子、いる。犬の型のなんか持っている。

 

岩村  なんか、ブツブツ言っててさ、

芽衣子 ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ、

岩村  うわー、なんかブツブツ言ってるーって思って、

芽衣子 ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ、

山下  こえー、

岩村  なんかブツブツ言ってるけど全然何言ってるかわかんねーって思って、耳近づけてたらやっと聞こえてきて、

芽衣子 どんな因果かわかんないね、あなたと出会ったのも。ここまで育ててきたのも、無駄だったのかな。うっかり頭をうったみたいに、突然ふっと思い出しちゃう。あなたと一緒に沈んでいった渦の底で、一生過ごすっていうこと。沈んだ先にはいろんなものが積もってて、なんだろうって思うと、それは言葉。わたしの人生を台無しにしたものの一切に復讐する、呪いの言葉。

岩村  っていうなんかおぞましい言葉が聞こえてきて、

山下  こえー、

岩村  話しているっていうか、呟いてる、呟いてるっていうか、唱えている、唱えてる っていうか、唱えていて、

芽衣子 あなたが家にやってきた時、愛を感じた。

その走り回る姿、弱い吠え方に。

あなたの毛をコロコロで掃除する時、愛を感じた。

紙に張り付くおびただしい曲線に、私の抜け毛と混ざる様に。 あなたが膝の上にのっかかってくる時、愛を感じた。

撫でる手に伝わる優しい感覚に、生き物の動きに。

あなたと歩く散歩道に愛を感じた。

いつものおしっこポイントに、季節によって変わる光景に。 桜、朝顔、紫陽花、モミジ、スミレ、パンジータンポポ、ヒマワリ、白詰草、 愛している。愛している。愛している。愛して

岩村  いる。愛している。愛している。って、みたいなこと、言ってて、明らかに三郎ちゃんとの思い出、言ってて、

山下  こえー、のか?

岩村  のか?って俺もなって、だけどよく見て、なんか犬の形したなんか持ってて、

山下  え、どこ?

岩村  ほら、手のとこ、左手に白いのなんか持ってて、右手にカッター持ってて、

山下  うわー、こえー、

岩村  掲げはじめてからあれが犬の形してるってわかったんだけど、つまりその白いの掲げはじめて、愛してる。愛してる。愛してる。

芽衣子 愛してる。愛してる。愛してる。

岩村  愛してる。って言いながら掲げはじめて、

芽衣子 愛は眠らない。愛は滞ることを知らない。愛は読めない文字である。愛は触れられないスマホである。さようなら。ありがとう、さようなら。

岩村  って、犬の形の白いのの首のところにカッター持ってくから、

山下  えー、

岩村  やめてーって、飛び出して行っちゃったの。俺。え、何やってるの?

芽衣子 何もやっていないよ。

岩村  何もやっていないわけないでしょ。愛してる愛してる言ってたじゃん。

芽衣子 愛してたのよ。

岩村  愛してた?なにを?

芽衣子 三郎ちゃんをよ。

岩村  カッター使って?

芽衣子 わたし、カッターを使わなきゃ愛せないの。

岩村  は?

芽衣子 カッターを使ってはじめて愛せるの。

岩村  は、何、カッターを使ってはじめて愛せるってなに?新鮮な言葉、新鮮な言葉使うね君、

芽衣子 わかんない、わかんないんだけど、

岩村  え、わかんないって何?三郎ちゃんのこと、嫌いなの?

芽衣子 わかんないって言ってるでしょ、わかんないの、だけども私、なんだかこうしなきゃならない気がしていて、

岩村  こうしなきゃならないって何?え、これ、何?シンプルにこれ、なんなの?こんな夜中に、何してるの?って何回も聞いたんだけど、全然なんか、よくわからんことばっか言ってて、

山下  はー、

岩村  え、三郎ちゃん、殺したいの?って聞いたら、

芽衣子 殺したいわけじゃないの、

岩村  って言うし、え、何、これ、はじめてじゃないの?って聞いたら、

芽衣子 耐えられないことがある時、わたしはわたしの怨念を込めた依り代を殺すのです、

岩村  って急にですます調になるし、え、何、シンプルに怖い、え、何、シンプルにこれ何、え、何、え、何、え、何って俺すんごい、え、何って繰り返してて、え、何っていう、テンパりすぎた時に出る自分でも知らない状態の口癖が、え、何、なんだってことが自分でも冷静にわかるくらい、え、何、って言ってて、挙げ句の果てに、

芽衣子 あなたのことを、もう十回殺しています。

岩村  え、何、俺十回も殺されてんのって、えーって、何ーって、え、もうほぼほぼ、叫んじゃったし、えーって、なんならちょっと笑けてきちゃってて、え、何何何何、え、俺、え、何、十回も殺されてるの、俺、え、なんで、って聞いたら、

芽衣子 明確に理由なんてないから、明確に理由があったならばこんなことしないから、明確に理由がわかんないんないからわかんないって言ってて、だけれどあなたも三郎ちゃんもどうしようもなく憎たらしくてどうしようもなく耐えられないくらい憎たらしく思える時があるの、だから、いや、だけれど、信じて、あなたを愛している、あなたを愛しているから。あーー、

岩村  って泣いちゃって、話通じなくて、よくわかんなくって、すごい泣いてるし、すごいあれだし、ちょっと、あの、来てくれない?

山下  え、なに?

岩村  すぐそこだから、来てくれない、

山下  え、

 

   岩村、山下を連れて、その辺を丸く歩きながら、

 

山下  え、今から、

岩村  うん、

山下  行くの?

岩村  うん、

山下  そこに?

岩村  うん

山下  いやいやいやいや、

岩村  いやー、ちょっとちょっとだけだから、

山下  無理無理無理無理、

岩村  いやー、もう、ほら、こういうのはさ、第三者がさ、大事だから、

芽衣子 あーーーー、

山下  え、泣いてんじゃん、

岩村  いや、そりゃ泣くよ、ずっと泣いてんだから、

山下  え、ずっと泣いてるの、

芽衣子 あーーーー、

山下  え、俺行っても何にもできないから、

岩村  俺が行ってもどうしようもないんだから。

山下  じゃあダメだよ、何やっても、

三郎  ワン、ワンワンワン、

岩村  ほらあ、サブちゃんも助けてって言ってるよ、

三郎  ワンワン、ワンワン、

山下  ええー、かわいいー、

岩村  ただいまあ。

山下  えええー、

岩村  友達を連れてきたよ。

 

  間。

 

山下  どうもこんにちわ。

芽衣子 誰ですか?

山下  あ、山下です。友達の。って具合で、無理矢理、本当に無理矢理連れてかれてしまったわけよ、

 

  あや、お茶を持ってくつろぎながら、

 

あや  へー、急展開、

山下  そしたらさ、急に喧嘩始まっちゃって、

あや  さらに急展開、

芽衣子 どこ行ってたの?私ずっと泣いてたのに?なんでどうしたなにがあったのって聞いてくれないの?なんで一人ぼっちにするの?ご飯食べてきたの?私のご飯どうすればいいの?三郎ちゃんのエサなんであげてないの?ああー、

山下  ってすごいエネルギーで岩村に詰め寄ってて、

あや  こっわー、

芽衣子 どこ行ってたの?私ずっと泣いてたのに?なんでどうしたなにがあったのって聞いてくれないの?なんで一人ぼっちにするの?ご飯食べてきたの?私のご飯どうすればいいの?三郎ちゃんのエサなんであげてないの?ああー、

岩村  待って待って、待って待って、待って待って、待ってって、山下来てるんだから。

芽衣子 誰、山下、何、山下、山下なんですか、なんで山下来たんですか?

岩村  おい、なんだその言い方は、

山下  いやあ、あの、ですね、僕が来たのはなんと言いますか、、

芽衣子 これですか、(カッターを見せる)

岩村  そうだよ、それだよ、

芽衣子 男って、本当に、、

山下  あのう、芽衣子さん、一旦カッター置きませんか、そんな物騒なもの持ってちゃ落ち着いて話もできないですよ。

芽衣子 落ち着いて話をすることなど必要でしょうか。

山下  必要です。人は落ち着くところからはじまるんですよ。冷静と書いて人と読むんですよ。人以外が冷静であるところを見たことがありますか。犬も猫もアリもカラスもオケラだってミミズだってアメンボだっていつだって冷静ではないでしょう。人だから冷静になれるのですよ。

三郎  ワンワンアンワン、

山下  深呼吸です。深呼吸をしてください。ふかーあく息を吸って、その倍の時間をかけて吐くのです。吸ってえええ、吐いてえええええー、吸ってえええ、はいてええええええー、

三郎  ワンワンワンワン、

山下  うるさいなあ、いえ、失礼しました。吸いましたか?息。

芽衣子 はい。

山下  吐きましたか?息。

芽衣子 山下さん、ありがとう。わたし、なんだか落ち着いてきたわ。駄目ね、取り乱しては、

山下  いえ、わかってくれればいいのですよ、っていうようにね、一旦、この場のとっちらかり具合を整えて、あ、なんだ、すごくやばい人かと思ってたけど話してみると意外に普通だよと、でも物騒だよ、そんな人を呪うなんてよくないよ、今回は犬だけど、

あや  犬、そもそもなんで犬?

山下  でしょ?そう思うでしょう、そもそもなんで犬、呪うんでしょうか?

芽衣子 なんで?理由なんてありません。呪いたいから呪うのです。呪いたくなければおのずと呪ったりしません。

山下  呪うってことはどういうことでしょう、相手を痛めつけたい、相手を不幸にしたいから呪うってことですよね?

芽衣子 そうなりますね、しかし呪っている時に相手を不幸にしたいだなんて考えませんよ、いいですか、幸せだとか不幸だとか考えているうちは、全然ダメですね。幸せだとか不幸だとか考えているってことは立ち止まっているんですよ、距離をとってわかることでしょう、幸せだとか不幸かってことは、ダメなんだなあ、もっと渦中にいないと、渦中に入ってはじめて呪うことができるのですから。

山下  渦中って、なんの渦中ですか?渦中ってことは何かの中にいるということですよね?

芽衣子 渦中は渦中です、いいですか、意味で捉えようとしても無駄なんです、渦中は渦中です、言葉を思い浮かべてください、渦の中、って書くでしょう、渦中って、渦、渦ってなんですか、まわってるでしょ、ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐーるぐーるまわっているでしょう、

山下  わかりました、別の角度から聞いても良いでしょうか?

芽衣子 わかっていません、あなたはなんにもわかっていません、この人と同じです、なんにもわかっていません、

岩村  え、俺、なんにもわかっていないの?

芽衣子 はい、まずこの声です、この声がわたしをぐるぐるさせます、この声が、息が、眼差しが貧乏ゆすりがわたしをぐるぐるぐーるぐるさせるのです。

岩村  え、何、俺、なんかした?

芽衣子 なんにもしていません、なんにもしていないからなのです。なんにもしていないということはなんだってしているということにアダプテーションしたって不思議でもなんでもありません。

岩村  え、何、アダプテーション

山下  そもそものところ、その人形、首を落とそうとしていたって本当ですか?

芽衣子 本当です。

山下  それって、あれですよね、殺意、ありますよね、

芽衣子 あなた、人形で人は殺せますか?

山下  殺せるとは思いません、しかし嫌な気分なのは確かでしょう。

芽衣子 人形の首を落としたところでサブちゃんの首は落ちません、そんなことは重々承知の助なのであります、むしろ重々承知の助な故に首を落とすのです。これは殺意でしょうか?

山下  だけど首が落ちて欲しいから首を落とすのでしょう、呪っているということはそういうことでしょう、

芽衣子 その通りです、だけど実際問題考えてください、わたしが生きていくには彼の収入源が必要です、そしてわたしは心から彼もサブちゃんも愛しているのです、今の生活から彼らがいなくなったならばわたしは廃人となるでしょう、なのにも関わらずわたしは呪わずにはいられないのです。これは一体どういうことでしょう。

山下  そうですね、一体どういうことかって聞かれましても、僕は専門家でもなんでもないものですから、あれなんですが、とにかく、人を呪うなんてやめてみることです、愛する者を呪うなんてよくないですよ。

芽衣子 愛する者だから呪うのです。愛していない者なんて呪う価値なんてありませんよ。わたしはあなたを愛しているのです。

岩村  あ、うん、ありがとう。

山下  あなたの言っていることはちぐはぐです。愛する者は守るべき者ではありませんか。守るべき者に危害が起こるように願うということはどういうことでしょうか。

芽衣子 世の中の夫婦に対して人はやれ言葉にすることが大切だ、相手の立場になってみることが大切だ、金玉袋が大切だとかなんとかかんとかおっしゃりますが、わたしからしたらそんなことより呪いあうことをお勧めしますね。言葉にすると言っても不満をいざ目の前に持ってこられたら腹の立つこと限りなしですし、相手の立場になってみたところで、相手の立場からしたらこんなこと言わないほうが良いかな、と飲み込んだ数々の言葉がいつ暴発するするかもしれない地雷と化すだけですし、金玉袋に関しましては、これに関しての説明は、まあ、いいでしょう。呪ってみることですよ、なんでもいいです、紙でも藁でも石鹸でも大根でも人参でも、呪いたい相手の姿形を模した人形を用意して、ナイフで首にゆっくりめり込ませます、日頃の溜まりに溜まったぐるぐるぐーるぐるを込めて、はたまた許せないことを鮮明に、隅々まで思い浮かべながら、ジワジワと、めり込ませるのです、ジワジワ、ジワジワと、ぐるぐるぐーるぐるとめり込ませるのです、愛している愛している愛している、、、

三郎  ワンワン、ワンワン、ワン、

芽衣子 愛している愛している愛している愛している、、、

三郎・岩村 ワンワン、ワンワン、ワン、ワンワン、ワンワン、ワン、ワオーーン、

 

山下  ってな具合で、全く話にならなくて、

 

   芽衣子、岩村、去る。

 

あや  あー、すごいね、

山下  ずっとあんな感じのこと言ってて、なんにも解決しなさそうだし、ちょっともういい時間ですのでー、って帰ろうとしたらイワムラー、帰らないでくれー、って顔でめっちゃ訴えかけてきてて、ごめーんごめーんって、手を合わせて颯爽と帰ってきたってわけ。あー疲れた、

あや  そりゃあ大変だったね、お疲れ様、

山下  世の中いろんな夫婦がいるんだなあって、

あや  そうだよ、いるよ、わたしの友達なんて、結婚してから、っていうか結婚する前から一回もキスしたことないらしいよ、キスどころかもう全部、何もないんだって、すごくない?

山下  えー、それ、どういうこと?なんで、籍入れたの?

あや  ねー、なんで籍入れたかまでは、全然わかんないんだけど、なんかいろいろ、あるんでしょう、当人同士の間では、

山下  へえー、

 

   あや、熱いお茶をすする。

 

山下  あ、僕もお茶欲しいな、

あや  あなたはなんで呪わないの?

山下  え?

 

   間。

 

あや  あなたはなんで呪わないの?

山下・あや って、

山下  言われて、

あや  言ってて、言っちゃってて、

山下  なっがーい時間が流れて、

あや  あ、なんか変なこと言っちゃったって思って、

山下  彼女がすするお茶の音が妙に響いていて、

あや  あ、これ、久しぶりの時間だなーって、久しぶりの何を喋ってもダメな時間がきちゃってて、

山下  何か言わなきゃ何か言わなきゃって思ってるんだけど、なんかすごい時間経ってて、その質問に対する答えを言うには時間が経ちすぎてしまっていて、今日、どうする?野菜炒めとか、つくる?

あや  って、あー、って、なんか、一瞬にして、あーって、あの時間は消えてしまって、あー、そうね、

山下  俺つくるよ、

あや  あー、って、すごくすごく、あーって、なってて、ね、ありがとう、

山下  っていうかなんで俺があやを呪うんだ?なんで俺があやを呪うんだろうか、って、ピーマンと玉ねぎと豚肉がオイスターソースによって黒くなっていく様を見ていて、

あや  次の日の帰り道のことなんだけどね、

山下  その日できたオイスターソース炒めはオイスターソース入れすぎてて、

あや  空がきれいだったんだよね、

山下  ギットギットに甘ったるくて、

あや  夕焼けがまだ夕焼けじゃなくって、

山下  ごめーんて、

あや  赤とオレンジと青が全部あって、

山下  ソース入れすぎちゃったごめーんて、

あや  あ、いいよいいよ、雲はゆっくり流れていて、あ、全然大丈夫、食べれるよ、っていうかおいしいよ、

山下  残して、いっぱい残して俺全部食うから、

あや  わたしはビニール袋を持っていて、

山下  その日俺全然寝れなくて、

あや  中に入った大根がじわじわ重くなっていて、

山下  妻ぐっすり寝ていて、

あや  きれいだけど、腕痛くて、早く帰りたいなあ、みたいな気持ちもあって、

山下  なんで呪わないのって、言われましても、ねえ?

あや  大丈夫よ、美味しかったよ、ちょっと濃かっただけだよ、その、空の色が、

山下  って、言う彼女が発するすべての言葉がなんと言うか、浮いてる気がして、

あや  でも帰ったころにはもう夜になっちゃうかって、

山下  って言うか、そもそももうずっと前から言葉がプカプカしてた気がして、

あや  だから大根は重いけどわたしもゆっくり歩いて帰ったほうがいいんだなあって思ったから、

山下  プカプカ、プカプカ、

あや  急ぐのをやめた。

 

三郎 ワンワンワンワンワンワンワン、

 

あや  そしたら、犬めっちゃ吠えてた。

 

   暗転

 

三郎 ワンワンワンワンワンワンワン、

 

終わり。