カハタレ日誌

カハタレの稽古の様子

鈴林まり空っぽになるワークショップ (空っぽになる〜演技・記述の手前を揺さぶる試み〜)

20220612、鈴林まり空っぽになるワークショップ

(空っぽになる〜演技・記述の手前を揺さぶる試み〜)

参加者、稲垣、桐澤、丹澤、杉原、南出、森

 

 

・森さんの髪型の話で盛り上がる。

・南出くんの髪型が変わったかどうかで盛り上がる。

・事前の宿題「世界と私」のお題で書いた文章を各自持参。

・会場のセッティング、各自テーブルにA4の白紙と筆記用具を置いて、言葉を書くブース作り。

 

まり

それでは、はじめて行きたいと思います。

まず、あまり話したことない人とペア組んでもらっていいでしょうか、

 

えーと、南出くんかな、

 

丹澤

だよね、はじめましてだものね、

 

桐澤

この辺みんな同じ感じだけど、

 

・なんだかんだで、桐澤と徹平、稲垣と丹澤ペアになる。

 

まり

それでは、ペアの人と向かい合ってもらって、お互いの体を観察しましょう、左右の肩を見比べて、こっちが上がってるとか、こっちの方が腕が長いとか、そう言うのを言い合ってください、

 

・なんだかんだでみんな盛り上がる。

 

まり

結構みんな色々出るんだね、じゃあ、右腕を脱力して、下半身の動きを起点にこんな感じで回して行きましょう、回してることを忘れるくらい、しばらく続けまーす。

 

・とにかく右腕をグルングルン振り回す。

・南出くんに回し方をアドバイスする森さん。

 

丹澤

あのペアなんかいいぞ。

 

稲垣

なんか楽しそうだな。

 

まり

はーい、じゃあ、またお互い、観察して色々言い合いましょうー、

 

稲垣

え、むしろ左手の方が緩んでる?長くない?左手、

 

丹澤

何故だ!

 

まり

えー、何でだ。

 

・で、またあーだこーだ言って、

 

まり

そしたら、次は左腕を、実際には回さずに、右腕を回した時の感覚を使って、イメージだけで、実際には動かさずにイメージだけで、左腕を回してください。実際には動かしません。目を瞑った方が集中できると思います。

 

・みんな無音でイメージの左腕を回す、

 

まり

はいー、そしたらまたお互いの身体観察して、変化伝えてくださいー、

 

丹澤

え、左手の方がリラックスしてるね、

 

稲垣

本当、なんで?イメージだけなのに、左手の方が力入っていない感じする。

 

まり

それはよくある現象で、イメージで動かした側の方が、効果が大きかったりするのです。

 

みんな

すげー、

 

稲垣

イメージの中でも左手回す時つっかえてて、ゴリゴリ言ってたぜ。

 

まり

それもあるあるだよね。実際に失敗する箇所ってイメトレでも失敗するみたいな。

 

(演劇の)現場でよく「今やってもらったの、俺のイメージと違うんだよな〜」なんていう風に、「イメージ」って言葉が使われると思うんだけど。そういう頭の上のへんに、実際本当にご本人が言ってるようなものとして具体的にあるんだか怪しいようなホワンホワンーってした「イメージ」……そういうものとは別にさ。今、左腕を動かさずに、意識で肩や腕に作用を及ぼしたような……具体的に用いる「イメージ」の世界ってあるんですよね。鍼灸師のお友達にこの話をしたらすごく共感されたの、直接見えない体の内側の臓器や筋肉、気の流れをやっぱり具体的に「イメージ」して、ここって刺す。そのイメージがうまくいくと治療が成功するそうなのですが。今日はそういう意味合いで「イメージ」って言葉を使っていきたいと思ってます。それから、これからの時間で「集中」って言葉を私が使うときは、そうした具体的なイメージの作業に注意を注ぐ、という意味だと思っていただけたらなと。

 

みんな

はあー、なるほど、

 

まり

それでは、今度はですね、みんな円になって座って、呼吸を観察する瞑想に入りましょうか。

 

このワークが終わったら、それぞれ机に用意した紙のところへ行って、宿題と同じ「世界と私」のお題で言葉を書いてみて下さい。

 

バスタオルをお持ちの方はこんな感じで厚めにたたんでお尻を乗せて下さい。大事なのはお尻と左右のヒザ、3点で体を支えることです。

軽く目を瞑ります、鼻から息を吸って、鼻から吐いて、自分の呼吸を観察します。鼻の先を息が通るときの感覚はどうなっているでしょうか。

息が鼻の奥を通って、気管、それから肺まで届く感覚。吸った息が吐く息に切り替わるところ、吐く息が吸う息に切り替わるところを観察してみて下さい。

 

今度は息の流れを別のルートでイメージしてみます。吸った息が頭蓋骨の内側、そのまま後頭部を通って首の後ろ、背骨を一つ一つ通って尾てい骨まで行って帰ってきます。そのまましばらく続けます。

 

ゆっくり目を開けます、では、自分のペースで書きはじめましょう。

 

・みんな黙々と書く。

 

まり

はーい、ありがとうございます。

『書く瞑想』という本が出ているんですけれども、今やったような感じで、瞑想してから書く手法があります。「あー燃えるゴミ出さなきゃー」とか「何時から仕事だー」とか、そういう日常的な感覚からあえて距離を置いた時間を取った後に、書いてみる。そうすると頭がスッキリする、デトックス的な効果が第一目的とされているんですが。でもこれを行うと、いつもと違う言葉が出てきたりして面白いので、創作にも活きるよなと感じて、今日はやってみています。

 

みんな

はあー。

 

まり

では、今度はペアで、隣の公園とか玄関の紫陽花なんかを見ながら、日常生活でごく普通にやっていることのなかで、さっき瞑想して「空っぽ」になったのに似た感じの時間ってこんなのがあるかも……みたいなことを見つけて、シェアしてみてもらってもいいですか。野菜を無心に刻んでいるとき、とか、何も考えずにお風呂入ってるとき、とか、人によっていろいろあるんじゃないかなって。

私もどこかの組に混ぜてください。

 

丹澤

それじゃあ一緒に行きましょう、

 

と、稲垣、丹澤、まり、グループになり、公園の木の前を主にして喋る。

 

・外に出ると天気雨で、雨がすごく綺麗だった。

・大きい木を見ると藤岡弘を思い出す稲垣。

・鳩が隣の家の屋根にいっぱいいた。

・鳩の餌で「まり」って名前書いて、鳩が文字になる遊びしてたまりさん。

・家でぼーっとしている丹澤。アニメ見てる時とか、

セミ羽化とか家の中でしてたまりさん。

セミ和歌山城でよく聞いてた稲垣。

・南出くんと森さんは古い、水出すやつで遊んでた。

・徹平さんと桐ちゃんは長いこと紫陽花の前にいた。

・時間になっても帰ってこないモリエリと南出に駆け落ち説が浮上する。

→実際には大きい猫がいたらしい。なんだそりゃ。

 

まり

はい、それじゃあ、もともと稲垣くんから要望のあった「歩行」に入ります。

まず、最小限の力で歩きたい、できるだけ力を入れずに立って、歩きます。が、こんな風に姿勢が崩れてしまうのはダメで、まっすぐの姿勢はキープしながら、しかしこれを保てる最小限の力を使うようにします。で、「感じる」という作業をします。たとえば触覚で、足の裏の感覚。この感覚を一つ目として感じ続けながら……二つ目の感覚、たとえば視覚でこの斜め上から来ている電気の明るさを感じます。最初の足の裏の感覚は感じ続けています。今、足の裏と明るさで二つ感じています。二つ目も触覚を選んで、たとえば頬で風を感じるというのでも構いません。聴覚でもいい。とにかく、前に感じ始めたことを途切れさせないまま、感じる対象の数を一つずつ増やしていってみて下さい。では音楽をかけますね、まずみんなでやってみましょう。

感じることだけでかなり大変だと思うので、最初から無理に歩きはじめなくても大丈夫です。感じることを保つのを優先でいきましょう。

 

・なんか子供の鳴き声やら、部活動の音やらする。

・前の車道に車が通ると光が眩しい。

・前から歩いてきた人とすれ違う時、すごい圧がする。

・一斉に歩いたあと、ペアの片方だけ出て、交代で行う。自分のペアや他の人が歩く様子を観察。

 

まり

せっかくなので、ゆっくり歩くのもやってみましょうか。感じることを増やす、のは無くして、速度にフォーカスしてみて下さい。人類史上最もゆっくり歩くつもりで。

 

・なんかみんな暗くなる。

・音楽もなんかすごかった(マーラー大地の歌」より「告別」)。

 

まり

なんか、どよんとしちゃったので、最後ちょっと明るく、音楽に合わせて好きに歩いてみましょう、なんでもありで、どーぞ。

 

・みんななんか踊ったりしてて楽しかった。

 

まり

うん、みんな解放されましたね。

さっきの歩行って、いわゆる演劇のトレーニングに当たるのですが……私は今年、瞑想に出会う機会があって習慣的にやるようになって。坐った時に入る感覚って、歩行の時に入る感覚と重なるところがあるのかなーって思ったんですね。それは呼吸を観察する瞑想に限らず、もっとシンプルに一定時間坐る方法の場合にも、入るスポットに共通項があるような気がして。コンディションによって潜れる深さや質はいろいろだと思うのですが、一言でいうと「空っぽ」なのかな。そんな共通項を手がかりに、今日は歩行とか瞑想とか、プログラムを集めてみたんですが。

 

では、次は、文章を、それぞれ皆さんに配ります。

 

 と、浦島太郎のあらすじが、まりさんの手でビリビリ7分割され、各自別の場面を受け取る。

 

まり

みんな出身ってどこなのかな。

 

稲垣

僕と南出くんは和歌山。

 

桐澤、徹平、森

うちら京都でおま。

 

丹澤

私、山梨、

 

まり

あー、いいですね、ちなみに私は名古屋です。

これから、今みなさんに渡した浦島太郎の文章を、それぞれの方言で、話してもらいたいんですよ。普段若い人はそんなに訛ってないよーってのあると思うんですけど、じいちゃんばあちゃん世代の喋り方なんかを思い出して、濃いめでやってもらいたくって。

 

みんな

えー、出来るかな、

 

まり

そうですね、全然適当なこと言っても大丈夫なので、なんとなくの内容だけ覚えて、なるべく紙を見ずにやってみましょう。じゃあ切り込み隊長、モリエリから、

 

1分待ってもらっていいですか?

 

まり

1分待ちます。

 

・京都弁の森さん、すご、亀さんって言ってた。

・名古屋のまりさん、ちゃんと方言ぽかった。

・全く和歌山弁ぽくない稲垣、おでんが文章に入ってたら関東炊きって言えたのにって変な言い訳をする。

・丹澤さん、方言、難しい、山梨は家族や近しい友には方言使うが、普段から外の人に対してはあまり使わないらしい。結局そのまま読む。

・桐ちゃん、やって、やって、って言ってて京都っぽかった。

・徹平さん、どすえって言ってた。

・南出くん、おいやん。ほいたら、ちゃんと和歌山弁してた。

・同じ地域の人でも喋る人によって全然違う。

 

まり

はいー、ありがとうございます。面白かったー。

これは、ですね、瞽女さんっていう、旅して村々を回りながら、三味線と唄で物語を聞かせる芸能者がいまして。瞽女さんは目が見えないので、紙の台本は使いません。膨大なレパートリーをどう演じているかというと、演し物のあらすじと、師匠の語りから聞き覚えた型を元に、即興的に語っていくそうなんです。語りをその場で組み立てていくっていうことですね。ちなみに三味線の合いの手もそこへ即興的に入るそうで。

私はこの、一言一句がその場の即興で、口頭で記述されるシステムがすごく興味深いなと思って。説経節もそうだったらしいんですが。似たことを試したいと思った時に、今の私たちがすぐに起動できる「型」に近いものってなんだろうなーって考えたら、方言なのかなって思って考えたワークなんですよね。

 

面白かった。色々な方言で聞いてみたい。

 

まり

前に仙台出身の子がやった時に、「これが本当の日本昔話か!」って感じがしてさ。

 

源氏物語とか関西弁と相性いいらしくて、関西弁で聞くと意味がすんなり入ってくるんよね。

(軽く実践してくれる。)

 

みんな

本当だー、

  

まり

はい、そしたら、また瞑想っぽいことをしたいと思います。

また円になって、座って、目を閉じます。

このワークが終わったら、またそれぞれ「世界と私」のお題で言葉を書きに行って下さい。

 

・「おでこ」「首」など体のパーツを感じ、それらと「一緒にいる」ことを感じる。

・自分の全身を感じたところから、今いる部屋、部屋のある建物、隣の公園含めた敷地、豊島区、東京23区、日本列島、アジア全体、地球、太陽系、銀河系、宇宙全体と「一緒にいる」をイメージ。

 

まり

これから深呼吸を3回して、徐々に戻ってきます。ゆっくりと目を開けて、腕や脚をさすって戻ってきて下さい。

それぞれのペースで、書きはじめましょう。

 

・みんな黙々と書く。

 

まり

それでは、これまで、宿題で書いてきたものと、今日一回目に書いたもの、二回目に書いたものとで三つのテキストが今手元にあると思うのですが。その中でね、みんなに共有していいかなって思える部分を抜き出して、ペアの人に読んでもらうことをしてみたいんです。もし共有できない内容ばっかりのところがあれば、白紙のスペースができても構いません。ちょっと内容を置き換えてもらってもいいですし。

3つの文章の変化を見たいので、紙を三等分にして分けて書いて、ペアの人に渡してください。

そうだな、軽くどこで発表するか決めて、ペアごとに発表して行きましょうか。

 

・森さんと南出くんが結構楽しそうに打ち合わせていた。

 

 

  • 稲垣、丹澤、まりグループの発表

・端っこに三人立ち、順番に読む。

 

徹平

丹ちゃんの文章すぐわかった。冷たい机とかいいなって。

 

桐澤

三人だからこの文章誰が書いたつやー、って、博打うちみたいに検討つけてた。

 

丹澤

書いたの読まれる時の方が緊張する。

 

みんなゆっくり読んでて言葉が入ってきた。

 

南出

稲ちゃんの書いた言葉のテンポ感が、まりさんが言うことによって全く違うものに変化してて面白かった。

 

  • 森、南出ペアの発表

・南出くんが机に座って、喋り、その間森さんが窓際を歩く。

 

・関係性が生まれるよね。

・南出くんと森さんの間の窓から子供の声が聞こえてきてよかった(徹平)

・二人とも近しい文章なところがある、最後疑問文で終わる感じ。

金子みすずぽいとこあるなって思った。

 

  • 徹平、桐澤ペアの発表。

・桐ちゃんが隅にラフに座り、徹平さんのを読み、終わったらはける。

・徹平さんは桐ちゃんと全く同じポーズで、同じ位置で、桐ちゃんの文章を読む。

 

・すごく聞きやすかった。絵も良かった。

・徹平さんの文章カタカナ多くて、面白かった。超高速とかの文章を桐ちゃんがゆっくり言ってるのよかった。

・桐ちゃんの文章だけ過去が今と交わるみたいな話出てるの興味深かった。

 

桐澤

私、学生の時、一年に4回同じ公園に行って同じ木を描くって授業があって、その時、枯れた柳を選んでしまって、4回とも枯れてたんだけど、枯れてる柳に向かって、手当てて、エネルギー送ってたときがあって、そのことを思い出してた。瞑想してる時、光が入ってくるイメージだった。

 

まり

ああそうです、今日はそこまで言葉を進めなかったんですが、ああして呼吸をしているうちに、外から良いものが入ってくる、という流れの瞑想なの。

桐澤さんの書いたテキストを聴いていたら、ちょうど今日自分が話そうとしてて忘れていた内容が出てきて。時間感覚の話。本当、そう言うところがあってね、瞑想のあと目を開けた時に、あれ、今こんなところにいるって本気でびっくりするの。その、瞑想の間、時間が消えているし、同じように空っぽになっていた過去の時間と繋がっちゃうし……だから目を開けた時、今にびっくりする。

ではこれで、私からのプログラムは終了です。

今日やったワークを、書く作業とからめてファシリテートしたのは初めてで、実験という感じでしたが。みんな事前課題、1回目、2回目と、ワークを挟んで出てくるテキストがすごく変化していて、私はとても面白かったです。同じワークを経て出てくる言葉も、ほんとにみんな、人それぞれで。

ありがとうございましたー。

 

みんな

ありがとうございましたー。

 

その後、何故か、劇場創造アカデミー時代に成果発表でした太田省吾のヤジルシの話で盛り上がる。

 

そして浦島太郎の話も盛り上がる。

 

稲垣

浦島太郎に玉手箱渡すの姫さんひどない?

 

丹澤

呪いなんだよ、呪い。

 

南出

浦島太郎は玉手箱を開けることで、ある意味幸せだったのではないか。

 

稲垣

しかし段階もなく、明日いきなり禿げるとかショックですぞ。

 

その段階が人生なんやなあって。

 

丹澤

究極亀助けなきゃ良かったってなるよね、

 

稲垣

もっと究極言えば何亀いじめとんねん、小僧ども!

 

そして、この後、イヨネスコの「禿の女歌手」と岸田國士の「驟雨」読んだ。盛りだくさんな一日であった。