カハタレ日誌

カハタレの稽古の様子

「気遣いの幽霊ができるまで」

当日パンフで配布した「気遣いの幽霊ができるまで」をまとめました。

(タイトルをクリックしてもらえれば稽古場日誌が読めます)

以下

 

20220710夜、ゴーゴリ「鼻」「外套」読んできた。 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

ゴーゴリの「外套」「鼻」をみんなそれぞれ読んできて、ブレインストーミング(思ったこと、感想、やりたいことを大きな一枚の紙に何も考えず書く)

・去年の夏の出来事、遠い過去のようです。

 

20220731夜、ゴーゴリもとに書いてきた - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・前回稽古のことを受けて、それぞれ書いてきて発表。木田くんという主要キャラが誕生。

・その後、共同劇作のやり方をどうするか、今後どういう風にカハタレとして活動していくかなど様々な問題を抱え、しばらく創作ストップ。

・四月に「カハタレの現在地vol.1」のオムニバス上演が決まり、一時期存在を忘れられるが、助成金申請するならと十一月に公演をすることが決まる。

 

検察官/査察官(ニコライ・ゴーゴリ)を読む - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・あさきさん初登場。ゴーゴリの「検察官」を読もうとするが、最後まで行かずグダグダに終わる。名前だけ一瞬だけ出てくる人たちが面白い。

 

20230624稽古場。次の公演のこととか - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・稲垣、丹澤、南出の制作打ち合わせの後、雑談。

ゴーゴリの「肖像画」を読んだ稲垣が、人物描写の「枠」について語る。

 

20230708 稽古ほとんど自己紹介で終わった - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・アキバっちょ初登場。

・初対面率高いので、先日の「枠」の話しからの繋がりで自己紹介WSをグダグダと即興で作ってやってみる。

 

蛙坂須美WS「実話怪談における幽霊表現」 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・待ちに待った蛙坂須美さんによる実話怪談WS。柿内正午さん、卯ちりさんも参加。

・前世の記憶を持たないバグった幽霊感が面白い。

 

横尾圭亮WS 【ゴーゴリの外套 〜"小さき者"を巡って〜】 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・横尾さんWS。ロシア演劇のことたくさん学べた。

・舞台監督の平井くん、照明の渡邉さん初登場。

・文学的類型や、出来事と事実の違いを知る。

 

20230917稽古、チラシ打ち合わせて戯曲読む。 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・チラシ打ち合わせで疲弊しながら暫定的に書き上げた戯曲を読む。

L’Arc-en-Cielってアパートを宮尾さんが見つける。

・今回やりたいことをざっくり話す。

 

20230923恵子 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・稲垣、髪切りすぎる。

・美術の話する。

・口の中でパチパチ弾けるお菓子食べる。

・登場人物について考えたかった。

 

20231001、1008稽古、鍋パ、アンダーソン、ジェットコースター - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・鍋パした。(恋バナ楽しい。)

・会話ってサービス精神だよね(秋場)

・ジェットコースターみたいな劇作りたい(稲垣)←みんなから質問攻め

 

浅川奏瑛WS「空間と身体のコレオグラフィ」 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・浅川奏瑛さんWS。

・なんだかんだで今作にちゃんと影響している。

 

10/14あさき覚醒、10/21超楽しいセリフ合わせ - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・あさきさんが覚醒した。

・横尾さん、浅川さんのWSでやってたワークを体育会系根性でてやってみようとする。

・最終的に変なワークが誕生。そのままセリフ合わせ。

 

20231028空洞稽古 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・超大事な会場での稽古。

・あさきさん別の舞台で来れないため、代役で旛山月穂さんが来てくれる、めっちゃ頑張ってくれて感謝。

・舞台美術が見えた。

 

衣装合わせたり、蛾を愛でたり、赤福食べたり、ラジバンダリー。 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・稽古場日誌書くの忘れたり、あさきさんが占い師的才能を開花させたりしながら最初からつくっていく。

・アキバっちょがアップで持ち込んでくれたワークが面白かったので、本番でもこの意識を使いたいってなる。

 

稽古ラストスパート、丹澤さん誕生日。 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

・流石に忙しすぎて日誌追いついてないけど、丹澤さんが誕生日を迎えていたことを知り、急遽次の日にケーキで祝う。(人の誕生日、自然に祝える気遣いを持ちたいと思った。)

 

「気遣いの幽霊」戯曲 - カハタレ日誌 (hatenablog.com)

※最後にこのQR読み取ってもらえると戯曲が読めます。

 読みたい方いましたら是非です。長々とありがとうございました。

 

 

柿内正午による「気遣いの幽霊」観劇速報

池袋駅のガラの悪いほうを抜けたところにスタジオ空洞はある。客席に座り幕開けを待つ。開演前から会場の照明が断続的に消えたり点いたりするので、機材トラブルだろうかと訝るのだがそれにしては明滅のタイミングが出来すぎていて、おそらく不安を煽る演出であろうと判断する。上演が始まり、客電が落ちたとき、くすぐられ続けた暗がりへの恐れが掻き立てられるのだろうと予想して身構えておく。
 
そのくせ本編では客席を照らす明かりはほとんど点きっぱなしである。隣の客の手元はつねに視界の端にちらつき、われわれは俳優たちからも丸見えである。この芝居は、観客に安心して暗がりから覗き見るということを許してくれない。こちらも顔を晒しながら、素面で向き合わざるをえないようだ。
 
劇空間は横幅が広く取られている。そして、奥行きは奇妙なほど希薄である。横並びに置かれ真正面を向いている俳優たちの背後には不織布が吊り上げられており、向こう側から照明が照射される。人間の視野は左右それぞれ100度ほどあるのだけど、そのうち必要なものを識別できる有効視野はせいぜい20度程度らしい。だから人物が配置される平面を一目で見通すことはできない。必ず注意の死角がある。それぞれの人物は微妙に共有する時間がズレている。上手に近づくほど遠い過去であり、下手にくつろぐ男のところが語りの時制でいえば現在であるようだ。この男は右隣の女の夫のようであり、かれの左側にはまだ空間が広がっている。妻とその右隣の女、中央の友人ふたりの会話で想起される上手端の男──いちばん過去の男──が回想を始める。その語りの総体を配置上もっとも受動的であるはずの夫は聞き流す。右から左へ、西洋の劇空間の作法からしても、高いところから低いところへと流れていくその視線の運動は、縦書きの小説を読むときのそれとも似ている。この印象はほとんど禁欲的なまでに横方向の配置と運動だけで構成される平面的な画面構成によるものかもしれない。ほとんど例外的に下手から現れ上手へと果敢に移動を試みる者、それこそが幽霊である。本作において、幽霊はかそけき予感ではなく、むしろ存在の過剰であるとされる。幽霊は誰よりもこの場において浮いている。じっさい、幽霊が現れるいちばん下手の空間を区切る不織布は、客席に対して微妙に迫り上がっているのだ。
 
本筋はないに等しいというか、本筋は脱線のための口実にしかならない。この芝居はとにかく蛇行すること自体の快楽に満ち満ちている。で、なんの話だっけ。えっと、これなんの話?
 
過去の短編「犬、呪わないで」や「月の世界」もそうであったけれど、稲垣和俊の戯曲は、ある夫妻の(非)緊張関係の描写が非常に巧みである。まだ顕在化はしていない、けれども確実にそこにある不和や破調。舞台上で登場人物たちが咀嚼する団子や白滝、おなじ食べ物であっても本物の食事を頬張るシーンと、偽物を食べるふりをするシーンが混在する本作において、夫が妻に作るパスタは初めから偽物である。
 
劇場とは傾聴(の見かけ)を強いられる場である。観客は舞台上を生きる虚構の人物たちには不可視のものとして、その存在を滅却される。そのうえで、ただ静かに席に座り、面白ければ笑い、悲しければ泣くことだけが許されている。観客は、上演中、その作品が作品であるために、あたうるかぎり上演されつつあるものを気遣っている。そして、その気遣いは誰にも思い出されることはない。気遣いの幽霊とは、観客のことではなかったか。
 
気遣いの幽霊たちの傾聴によって成立する空間において、ふだん人がいかに人の話の聞いていないか、その聞いていなさをどう表現すればよいのか。言い換えれば、観客がいかに目の前の芝居を真に受けていないかを突きつけるにはどうしたらよいのか。『気遣いの幽霊』は複層化した語りのひとまずの収束点である現在の夫のすべてを聞き流す態度としてこれを示してみせる。夫は、その場で繰り広げられる豊かな脱線や、滑稽な冗漫さをすべて枝葉として切り捨ててしまう。夫は、妻の言葉のほとんどを受け取り損ね、決して現在から過去に向かって動き出そうとしない。
 
ゴーゴリの『外套』に着想を得たというこの芝居の幽霊は、現在に安住する表面上は「優しく聞き分けのよい」夫の不動の故に、けっして挾み撃たれることはない。ただそれぞれの位相からの声たちにもみくちゃにされ、挙動不審な身体のブレさえも次第に抑制されて、幽霊はけっきょくは現在よりも下手側、非在の位相へと流されていくほかないのである。
 
中盤のクライマックス、井の頭公園で三人の大人たちが大泣きするシーンは素朴に感動的である(稲垣の過去作「終わりの会」よりも泣き笑いのカタルシスがずっと洗練されている)。それは、このシーンこそが唯一、日常生活の上演を基礎づける気遣いのコードのほつれ目であり、過去や未来の意味にも囚われず、ただその場で喚起させられたものにだけ突き動かされるようにして、ひたすら泣くという行為だけが為されていたからだ。
 
 
 
執筆:柿内正午
かきないしょうご。会社員。文筆。■著書『プルーストを読む生活』(H.A.B) 『会社員の哲学 増補版』等■寄稿『文學界』『週刊読書人』他 ■Podcast#ポイエティークRADIO 」毎週月曜配信中。 ■最高のアイコンは箕輪麻紀子さん作 ■ご依頼などの連絡は akamimi.house@gmail.com
 
 
 
 

「気遣いの幽霊」関係者紹介10(丹澤さん)

カハタレ第一回公演「気遣いの幽霊」関係者紹介です。

 
プロフィールと今作に関わる共通の質問を全員に聞いています。
最終回です。
 
 
今回は出演しながら、制作もめっちゃやってくれてるカハタレの重鎮、丹澤さんです。

実はこの劇の主役です。

 

 

 

丹澤美緒(出演)

 

 


●プロフィール


座・高円寺 劇場創造アカデミー修了後、都内を中心にフリーで役者として活動。
2014 年 より演劇企画 RadicoTheatreを⽴ち上げ、演劇公演の企画制作、イベント企画等を⾏うなどするが現在事実上活動休止。
いわゆるコロナ禍でちょっと疲れていたところ稲垣くんから「戯曲書く人たちでゆるい集まり始めたいんすけど〜」的な感じで誘われて参加したはずがいつの間にかそれなりにちゃんと演劇団体っぽくなってきたカハタレが最近の主な活動。

 

 

 

●好きな食べ物
じゃがいも。なにしてもおいしい。

 

 

 

●今作の見どころ


誰かが話して誰かがそれをきくということ、それは常に起き続けている超シンプルな出来事なんだけど、人間関係において、人間社会において、かなりのウエイトを占めている根本的なことだと思います。
そんな当たり前すぎてこぼれがちなことをちょっとだけ噛みしめるそんなかんじなところ。

 

 

 

●気遣いについて思うこと


変に気を遣って失敗して落ち込むときというのがあるが、こういうときはだいたい誰も求めてない不要なきづかいしてひとりでカラ回ってるときだよね。って落ち着いて考えられるようになった。
気遣いってかなりさり気ない。ちょっとしたことだからこそ、そこにその人らしさがでるなと思います。

 

 

 

●これだけは言っておきたいってことがあったら書き尽くしてください!

 

楽しんでいただけますように!もちろんわたしも楽しみます〜

 

 

 

 

以上!
本当に以上。
これにて関係者紹介終わりです。
 
 
そして良かったら「気遣いの幽霊」来てね。
まだ26日(日)予約できます。特に17時回おすすめです。
売り止め回も当日券少し出ます。
照明も美術も演技も小道具もめちゃ面白い劇になってきましたので、いろんな方に観てもらいたいです。
よろしくお願いします!
 
 

 

 

「気遣いの幽霊」関係者紹介9(木嶋さん)

カハタレ第一回公演「気遣いの幽霊」関係者紹介です。

 
プロフィールと今作に関わる共通の質問を全員に聞いています。
お楽しみに。
 
 
今回は衣装っていうか、ほぼ美術で参加してくれてる木嶋さんです。
いつもいてくれてめっちゃ助かってます。

ケーキのチョイスがうまい。

 

 

木嶋美香(衣装)

 

 

 

●プロフィール
 
時々主催公演をしたりしなかったりしてます。
知り合いの公演のお手伝いに入る方が断然好きです。
 
 
 
●好きな食べ物は?
 
ドリアン
 
 
 
●今作の見どころは?
 
錯綜してるところ
 
 
 
●気遣いについて思うことは?
 
戯曲の内容通りと思うが、「気遣いをしていることを相手に気づかれない事」が一番良いと思うのでそれを目指したい。気遣いの努力は誰にも知られなくて良いかと。
 
 
 
●これだけは言っておきたいってことがあったら書き尽くしてください!
 
ここは善人の集まりです。
 
 
 
以上!
関係者紹介もあと数人。。
 
 
そして良かったら「気遣いの幽霊」来てね。
けっこう売り止め始まってますが、まだ26日(日)は予約できます。当日券も出るかもしれないので随時Twitterチェックしてもらえれば。
 
 
 
 
 

「気遣いの幽霊」戯曲

「気遣いの幽霊」

 

 

  あや。ともみ、並んで歩いてくる。

  舞台真中で二人止まる。

  止まるが、その場歩き、自然な、つまり演劇の虚構が始まったのだ。

 

 

あや   

どこ向かってるの?

 

ともみ  

そうねえ、一旦、歩いてみようと思って、歩いてたら、見つかるもんじゃない、ここだって、今日私たちに最適なのはこの店だ、っての、

 

あや   

商店街過ぎたよ、

 

ともみ  

そうねえ、

 

あや   

っていうか、なんだろう、駅の反対側行ってみたら、

 

ともみ  

うーん、そうするか、

 

あや   

あと、検索したら。っていうか、しようか?

 

ともみ  

嫌いなの、検索。

 

あや   

え、そんな文明批判するキャラだっけ?

 

ともみ  

文明批判ではないけど、嫌いになったの、先日、

 

あや   

先日?先日嫌いになったの?検索?

 

ともみ  

検索っていうか、Siri?

 

あや   

ああ、Siri、

 

ともみ  

先日ね、先日のことなんだけど、

 

あや   

あ、先日の話に入るのね、

 

ともみ  

佐伯くんとご飯行こうってなって、吉祥寺で、

 

あや   

うん、

 

ともみ  

どこ行く?

 

佐伯   

うん、そうだなあ、

 

ともみ  

わたし、カレーとかベトナム系とかフォーとか食べたい。

 

佐伯   

ヘイ、シリ、カレーとか、ベトナム系とかフォーとかのいいお店教えて、

 

  間。

 

佐伯   

ヘイ、シリ、カレーとかベトナム系とかフォーとかのお店教えて、

 

  間。

 

ともみ  

シリに無視されてるー、

 

佐伯   

ヘイ、ヘイ、ヘイシリ?、ヘーイ、ヘイ、ヘイ、ヘイシリ、ピコンともならないなあ。

 

ともみ  

ヘイって何?、ヘイって変な言葉、

 

佐伯   

ヘイー、シリー、え、マジで、シリー、頼むよ、教えて、ヘイー、

 

  間。

 

ともみ  

もういいよ、シリ諦めようよ、

 

佐伯   

ともみん、言ってみてよ、

 

ともみ  

え、

 

佐伯   

ヘイシリ?て言ってみてよ、

 

ともみ  

え、嫌だ、

 

佐伯   

え、なんで、

 

ともみ  

ヘイ、って言いたくない、

 

佐伯   

いや、これはあれよ、俺の声が反応しない声なんじゃないかて実験なわけよ、ともみんの声だったら通じるのかな、この思い、シリに、っていう実験なわけよ、言って、ヘイシリ?って、

 

ともみ  

へい、あー、無理、わたし無理なの、へいって言えない身体、生まれつき、わたし、へいって言えない身体してんだよ、わかるかな、イエーもなかなかきつい、イエーも結構言えない、こないだ、コメダで、音楽流れてて、はじまり好きで、お、いいぞいいいぞって曲で、

 

佐伯   

ヘイシリ?

 

ともみ  

え、ちょっと何?

 

佐伯   

いや、高音だったらいけるかなって、

 

ともみ  

今、話してるじゃん、わたし、

 

佐伯   

聞いてる聞いてる、聞いてるけど、高音だったらいけるかなって、

 

ともみ  

それって聞いてないよね、

 

佐伯   

ごめん、話して、なんだっけ?、コメの話、

 

ともみ  

コメダの話ね、コメダの話なんだけど、もういいや、

 

佐伯   

ヘイ、ヘイヘイ、ヘイヘーイ、ヘーイヘーイヘイ、、、ヘーイヘーイヘーイ時には起こせよ、ムーヴメン、

 

ともみ  

え、何?

 

佐伯   

がっかりさせない期待に応えて素敵で楽しい いつものおいらを捨てるよ、

 

ともみ  

うるさいうるさい、やめて、え、急にふざけんのやめて。

 

佐伯   

え、なんで楽しいじゃん、H Jungle with t

 

ともみ  

名前ふざけてるよね、H Jungle with tって名前がもう、ふざけてるよね、

 

佐伯   

ふざけてもいいじゃない、デートなんだから、

 

ともみ  

いやいや、デートこそ、ふざけちゃダメじゃない、ね、思わない?

 

あや   

ああ、時と場合によるかな、

 

ともみ  

え、でもこれはふざけちゃダメな時と場合じゃない?

 

あや   

ごめんね、本当ごめんねなんだけど、正直今この話、何をわたしに感じてほしい話なのかいまいちピンときていないんだよね、ヘイヘイヘイヘイ言ってるだけだよね、二人して、

 

佐伯   

ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、、、、

 

ともみ  

こっから、話したいのこっからで、なんだかんだで、その日のわたしと佐伯くんね、なんか、噛み合わなかったのよ、歯車、なんか、やっぱイライラスイッチ入っちゃってて、え、ちゃんと探してよ、店、もういいじゃん、シリにヘイヘイ言うの、

 

佐伯   

ヘーイ、へーーイ、シリ、へーーーーイ、

 

ともみ  

って声、どんどん大きくなってくの、

 

あや   

最悪だね、

 

ともみ  

街だし、普通に街中だし、周りの目線とか気になってきてて、ねえ、もういいよ、やめて、わたし、探すから、

 

佐伯   

諦めたら、諦めたらそこで試合終了だし、

 

ともみ  

試合じゃないし、って思って、

 

あや   

シリだしね、

 

佐伯   

ヘーイ、へーーイ、シリ、へーーーーイ、

 

ともみ  

ってもう本当最悪、本当、本当は最高なはずなデートがシリの介入によって、というかシリの無介入によってめっちゃくちゃにされたんだけど、ヘーイ、

 

ともみ、佐伯  

へーーイ、へーーーイ、シリ、へーーーイ、

 

ともみ  

って、スマホ持ってる左手、ぶん回しながら佐伯くん、叫んでたの、佐伯くん、

 

あや   

めっちゃ最悪じゃん、

 

ともみ  

そしたらタクシー来ちゃって、

 

あや   

タクシー?

 

ともみ  

勘違いされて、前に停められて、ドア開けられて、

 

佐伯   

え?

 

ともみ  

って佐伯くんびっくりしてて、

 

佐伯   

乗る?

 

ともみ  

いや乗らないでしょ、

 

佐伯   

一旦、一旦乗っとこか、

 

ともみ  

って、行きたいとこも何も決まってないのにとりあえずタクシー乗っちゃって、

 

あや   

えー、最悪、

 

ともみ  

でもでもね、そのタクシーの運転手に、どっか良いカレーかフォーか出してるお店ありますか?って聞いて、あるよ、って連れてってくれたお店の牛肉フォーの牛肉の柔らかさ、さっぱり加減、喉越しの良さ、、ったらなかった、ちゃんと、ちゃんとフォーしてたフォーだった、

 

あや   

えー、行ってみたーい、ちゃんとフォーしてるフォーって希少だよね、

 

ともみ  

本当そう、ちゃんとフォーして欲しいのよ、フォー出すんならね、っていうか、フォー行く?

 

あや   

あー、フォーいいね、っていうかここどこ?

 

ともみ  

わかんないんだけど、全然、店とか飲食店とかフォーとか全然ない系のとこまで来ちゃったね、

 

あや   

東京にこんなとこあるのね、めっちゃ畑じゃん、

 

ともみ  

あ、コンビニあるよ、

 

あや   

コンビニってどこにでもあるね、

 

ともみ 

一旦コンビニ行こうか?

 

あや   

あ、いや、一旦コンビニ行こうかは意味わかんなくない?ちょっと中学生すぎやしない?

 

ともみ  

ん、中学生?

 

あや   

いや、うん、いいやいいや、コンビニ行って何買うの?

 

ともみ  

おでんとか、

 

あや   

今からご飯行くんだよね?

 

ともみ  

検索、する?

 

あや   

検索するとかの前に、駅方面戻ろうよ、

 

ともみ  

うーん、そうねえ、一旦コンビニ行くか、

 

あや   

なんでそんなにコンビニ行きたいの?

 

ともみ  

なんでそんなにコンビニ行きたくないの?

 

あや   

なんでそんなにコンビニ行きたくないのっていうか、コンビニ行く必要が今の私たちにはなくなくない?

 

ともみ  

あるあるあるよ、

 

あや   

あるあるあるって何よ、

 

ともみ  

なくなくない?の反意語。

 

あや   

え、なくなくない?の反意語ってあるあるあるなんだ。

 

ともみ  

ねるねるねるねみたいだね、

 

あや   

ってこの子が言って、紫色の体にわるそーうなねるねるしたやつ頭に浮かべながら、あれ、わたし、なんでこの子と今まで仲良くやってきたんだ?って自分で自分のこと不思議になってきていてね、

 

山下   

ふうーん、

 

ともみ  

チャラララララン、チャララララーン、(ファミマの音)

 

あや   

この子、そそくさと入っていっちゃって、ファミマ、

 

ともみ  

あ、すみません、おでんの、大根と、卵と、こんにゃくと、竹輪としらたきと、牛すじ肉と、がんもとウインナーとだし巻き卵と、

 

あや   

待って待って、おでんで豪遊しようとしてない?

 

ともみ  

あ、もう、あれか、缶チューハイも買おうか、

 

あや   

ってあれよあれよと、公園のベンチに座っていて、

 

ともみ  

カンパーイ、

 

あや   

乾杯、そっから長い長い動物豆知識コーナーが始まって、

 

ともみ  

踵に重心乗っけるのって人間だけなんだって、ペンギンとかも立ってるけど、つま先に全体重乗っけてるらしいよ、

 

あや   

へー、

 

ともみ  

脳の中に松果体ってのがあって、これが第三の目って言われてるんだけど、四足歩行の脊椎動物なんかは、これで光加減を受容して、体内の生体リズムを作ってるらしいのね、でも人間って二足歩行でしょ、退化しちゃうんだなあ、これが、え、面白くない?

 

あや   

面白いね、本当どうでもいいけど、って、おそらくYouTubeかなんかで得た知識をともみはわたしに対して披露してくるターンがあって、ま、いつもこんな感じなのね、このターンで酔いを深めに深め、本当に話したいターンが始まるわけ、

 

山下   

え、第三の目って脳の中にあるんだ、じゃあ三つ目がとおるのおでこにあるのって四つ目じゃん、

 

あや   

うん、、それでね、話の続きしていい?

 

山下   

あ、ごめん、いいよいいよ、

 

あや   

その日のともみの本当に話したい話ってのが結構複雑で、

 

ともみ  

怖い話していい?

 

あや   

ていきなり始めた怖い話の概略を説明すると、要は佐伯くん、さっきシリにキレてた人ね、ともみの彼氏なんだけど、そろばん七段持ってるらしいんだけど、佐伯くんがね、幽霊に会ったって話で、

 

山下   

そろばん七段?めっちゃすごいじゃん、

 

あや   

あ、すごいんだ、

 

佐伯   

怖い話していい?

 

ともみ  

って、佐伯くん、フォー食べてる時に言い始めて、え、白滝、ウマっ、

 

あや   

白滝、白滝っておでんに入ってるんだ、

 

ともみ  

つまり存在をさ、忘れてるわけじゃない、白滝って、あ、白滝いたんだ、ってなる存在なわけじゃない、つまり、あれね、チョイスする時代になってるわけでしょ、今、YouTubeとか Spotifyとか、チョイスチョイス、選択して見るわけでしょ、各々、

 

あや   

あー、なんていうんだっけ、それ、なんだっけ、あのー、アレね、なんちゃらなんちゃらサービスってやつね、

 

ともみ  

おでんもそうよ、もう、ドガっと鍋でつくるなんて私、しないもん、コンビニで買うだけだもん、チョイスチョイスよ、チョイスチョイスの時代に白滝がチョイスされることってあるのかしら、いや、もちろんあるから売ってるんだろうけど、っていうか実際私は買ってるんだけど、だけど違うじゃない、白滝の喜びはそうじゃないじゃない、白滝の喜びは、大根、蒟蒻、卵、ちくわ、餅巾着と、色々楽しんだ後に、あれ、白滝あーんじゃーん、じゃん、あれー、白滝あるなら、白滝、いってみようかねー、じゃん、ってなって、食って、ウマってなるのが白滝じゃん。

 

佐伯   

つまり、俺、どうすればいいの?

 

ともみ  

おでん作るなら白滝入れようよ、って話、っていうかおでん作るなら一緒に作ろうよ、一緒に何入れるか考えながら作ろうよ、おでん、

 

あや、佐伯  

ごめん、

 

佐伯   

ごめん、そんなおでんで怒られると思ってなかった。

 

ともみ  

ごめん、怒ってないんだけど、

 

あや   

ごめん、ごめんね、これ何の話?

 

ともみ  

おでんで佐伯くんと喧嘩した話。

 

あや   

おや、あれ、怖い話ってどうなったんだっけ?

 

ともみ  

怖い話、なんだっけ?

 

あや   

ひっぱたいてやろうかな、

 

山下   

ダメダメダメダメ、

 

あや   

この子、いっつもそうなのね、つまり、話し始めると止まらなくて、何の話してるのか忘れてずっと話してて、わたし、ずっと、ずーーーっと聞いてるわけ、

 

山下   

へー、と、まあ、その話を聞かされているのが僕ってことになるんだけど、へー、なんだろ、正直全然、これまでのくだりが頭を素通りまくっていて、妻のこれまでの話の中で僕の頭の中に残ってるのは三つ目が通るのシャラクホウスケが実は四つ目だったってことだけなんだけど、へー、ともみちゃんってそうなんだ、

 

あや   

そうって何?

 

山下   

え、だって前会った時、そんなベラベラ喋る印象無くって、

 

あや   

そりゃ、ね、こっちは学生時代からの友達だから、って、言ってみて、友達、そうか、これ、わたしの友達なのか、なんかめっちゃ白滝をジロジロ見つめているけど、

 

ともみ、佐伯  

怖い話、していい?

 

ともみ  

そうそう、佐伯くんがね、言うのね、フォー食べながら、淀んだ目でこっちを見つめながら、

 

佐伯   

怖い話、していい?

 

ともみ、あや  

いいよ、

 

佐伯   

これは、ある、今年の冬の始まり頃、あー、ちょっと肌寒くなってきたなーって、流石に結構寒い日もあるし、上着とかちゃんと欲しいなあー、って時期に起こった話なんだけどね、

 

ともみ  

今じゃん、

 

あや   

うん、すんごい今だね。

 

佐伯   

そう、今、すごい、今、っていうか昨日、昨日起こった話なんだけどね、

 

あや   

昨日ってのはあれね、ともみが佐伯くんにこの話を聞いてる時における昨日ね、つまり、わたしがともみからこの話を聞いてる時の昨日じゃないからさ、それがいつ起こったのかわたしには全然わからないってことになるんだけど、

 

山下   

そう言われることでそれがいつなのかよりわからなくなる気がするんだけど、つまり僕が聞いてる今は、さらにともみちゃんから聞いた話を妻が話している今で、さらに未来、それが起こった日から見ると、少し先ってことなのは間違いなくてだな、

 

佐伯、ともみ、あや  

怖い話、していい?

 

ともみ  

って佐伯くんが言い始め

 

あや   

たってっ話をともみからわたしが聞いているんだけど、

 

佐伯   

俺、I橋区役所前駅って最寄りのとこに住んでて、

 

ともみ  

I橋区役所前駅?

 

あや   

もうほぼほぼ駅名言ってるよね、

 

ともみ  

そう、全くもって、全くもって同じ言葉をわたし言ったんだけど、えー、もうほぼほぼ駅名言っちゃってるじゃーん、

 

佐伯   

そのう、ちょっと寒いなって、なんか怖いなー、あー、なんかやだなやだなー、って日の、薄暗い日、近所の団子屋で、三色団子買って食ってたんだけど、板橋の、あ言っちゃった、I橋の、っていうか、I橋って、もう、何?全然板じゃないの、

 

ともみ  

知ってる、板じゃないよね、

 

佐伯   

車で通れるようにアスファルトでガッチガチに固められてる橋なわけね。全然、板って感じしないの。

 

ともみ  なんとなく手すりみたいなとこだけ木造で、申し訳程度の板橋感だけ出しててね、

 

あや   

へー、

 

佐伯   

で、俺、その日、すんごい疲れてて、っていうのは、社長、社長がマジでうんこみたいな社長で、うんこみたいなことしかしないし、うんこみたいなことしか言ってこないって人で、その日もすんごいうんこしてて、もううんこじゃんって、存在から匂いから、フォルムまでうんこじゃんって、もう何もかもうんこじゃんってことを俺に言ってきたりしてて、

 

ともみ  

うんこうんこ言わないでもらっていい、白滝、いや、フォー食べてるから。

 

佐伯   

あ、そうだあれあんじゃない、って、縁切り榎思い出して、いっちょ行ってみまっかって、

 

ともみ  

え、行ったの?縁切り榎?

 

あや   

縁切り榎?

 

ともみ  

縁切り榎ってのは、その名の通り縁切ってくれる榎なんだけど、今三代目らしいんだけど、

 

山下   

三代目縁切りブラザーズ。

 

あや   

うっせえ、

 

ともみ  

昔からね、生きてる限り、いろーんな人と会うでしょ、しかも昔なんて見ず知らずの人の元に嫁ぐなんてザラにあるから、そりゃ縁切りたくなる人もいますよねって時に神様仏様お願いします、と、あの人との縁を切ってください、と、お願いするのよ、榎に、

 

山下   

え、きのこに?

 

あや   

きのこじゃないから、え、えのきって、何?

 

ともみ  

え、えのきってなんだろう、木、なんていうのかな、木、ただの、木、私から見たら、なんの特徴もない、木なんだけど、

 

山下   

あ、今日きのこパスタにするか。

 

あや   

あ、うん、いいね、ありがとう、

 

ともみ  

板橋を越えてすぐのアパートの二階に佐伯くんは住んでいるんだけど、縁切り榎はそのさらに商店街をまっすぐ行ったとこにあるのね、なんかかなり強い負のオーラ、放ってるらしくて、近づくだけでカップルが別れちゃうみたいな言われ方してたり、

 

山下   

井の頭公園のアヒルボート乗るとカップルが別れるって都市伝説知ってる?

 

あや   

知らない、

 

山下   

「これでいーのかしら」って彼女の方が思うらしいよ。

 

あや   

、、それでね、話の続きしていい?

 

山下   

あ、うん。

 

佐伯   

えっと、ごめん、どこまで話したっけ、社長がうんこだって話したよね、

 

ともみ  

それで縁切り榎に行ったんでしょ。

 

佐伯   

何にも進んでないじゃん、え、何にも話進んでない、え、びっくり仰天、なんでこんなに話が前に進んでないんだよ、

 

ともみ  

ごめん、縁切り榎がなんなのかって話してたから、

 

佐伯   

縁切り榎、やばかったよ、いや、なんだろう、語彙力がなさすぎてごめんなんだけど、やばかった。俺の他にも先客がいて、ふっつーのおじさんと、お姉さんの二人組、せっまい鳥居超えたとこで、せっまいとこに並んでるんだけど、いや、やっぱ、あれだね、ああいうとこって、あれだね、パワーあるね、パワーじゃないか、オーラ、オーラ漂ってるね、負が、スパイラルしてるね、負が、デフレスパイラルしてる、なんか、そうだな、どこがどうって言えないんだけど、負が、こう、降ってきてる、負、だけにね、ふ、ふ、ふ、そうだな、なんか、つくりが、そのう、祠の構造が、そのう、負のオーラ漂ってるって感じで、木造の、そうだな、どこがどうって細かいこと言えないんだけど、

 

あや   

うーわ、細かいこと言って欲しかったなあ。

 

佐伯   

それで面白かったのは絵馬ね、最近の絵馬って自販機で売られてるのね、びっくりした、ちゃんと温度管理されてて、17℃、え、絵馬の最適な保存温度って17℃なんだって、熱くもなく冷たくもなくってこと!?って、縁切りするときにこの自販機で絵馬買う気持ちってどんなんでしょうか、って買おうかとも思ったんだけど、流石になんか絵馬買うのはガチすぎて怖いなって思って、、、買わなかったんだけど、

 

あや   

いや、買おうよそこは、

 

佐伯   

前のおじさんのお祈り長いなあと思いながら、俺、社長のこと忘れてて、祠の前にぎっちり吊るされてる絵馬に何が書いてるのかずっと気になってて、て、いうのは絵馬、買ったら、一応プライバシーのため、紙みたいなので覆われてるわけよね、でも見ようと思えば見れるわけよね、こうペリって剥がして、でも、こんなん見ちゃったら、あれじゃないって、やばくないって、なんか呪われそうで、やばくないって、で、結局見なかったんだけど、

 

あや   

いや、見ようよ、そこは、怖い話じゃないの?

 

ともみ  

佐伯くん、ごめんね、佐伯くんって、あれだね、怖い話するのとか、あんま向いてないね、

 

佐伯   

え、なんで、

 

ともみ  

あんまり、あれ、とか、これ、とか、やばい、とか、あんまり怖い話で聞かないっていうか、しかも、絵馬買わなかったり、絵馬の中身見なかったり、怖い話って結構、そういうとこ行っちゃうとこあるじゃん、あるじゃんっていうかグイグイ絵馬の中身とか見ちゃう系の人が怪異に遭遇したりするわけじゃん、あと、なんか、なんだろ、ムードじゃん、怖い話って、ムード大事じゃん、そもそもフォー食いながらする話じゃなくなくないって、ってわたし言ったの、そしたら、

 

あや   

あるあるあるよ、って言った?

 

ともみ  

なんでわかったの、

 

佐伯   

あるあるあるよ、

 

ともみ  

って、佐伯くん言ったの、そしたら私、

 

あや、ともみ  

ねるねるねるねみたいだね、

 

ともみ  

って言って、

 

佐伯   

たしかにー、

 

佐伯、ともみ  

あはあはあはあは、

 

ともみ  

って、二人で笑ってて、

 

あや   

怖い話してるんだよね?

 

山下   

ごめん、本当これなんの話なの?って言った時の僕の頭の中、多分エマワトソンのことしか考えてなかったんだよね、ウィガーディアンレディオーサー、

 

木田くん 

あーあーあーあー、

 

佐伯   

こっから、こっから怖くなるから、で、なんか色々あって、さらーって社長との縁切ってくださいって2秒くらいお祈りして、

 

あや   

みじか、

 

佐伯   

帰ってる時ね、つまり、家にね、帰ってる時なんだけど、家だよ、俺がね、家にね、家に帰ってる時の話なんだけど、

 

あや   

わかったわ、

 

ともみ  

って、言っても縁切り榎から佐伯くんの部屋まではせいぜいかかっても5分くらい、その間に、でっかい力士の絵が張り付いてるちゃんこ屋と、首が左右にカタカタ動くちっさい人形ばっかり大量に飾ってる謎の喫茶店があるだけなんだけど、

 

佐伯   

つまり、縁切り榎、俺の部屋、板橋、って順にあるわけじゃない、縁切り榎側からみて、俺の部屋は板橋の手前にあるわけ、

 

ともみ  

うん、知ってる。

 

佐伯   

俺、部屋帰ってるのに、いつのまにか板橋歩いてたんだよね。

 

ともみ  

え、何?、どういうこと?

 

佐伯   

絶対ありえないよ、え、絶対ありえないんだけど、部屋通り過ぎて板橋の上に来てたんだよね、俺何回もこの道通ってるんだもん、通り過ぎるなんてありえないでしょ、ともみんも何回も通ってるじゃん、あの道、俺、通り過ぎてて板橋の上を歩いてて、

 

ともみ  

え、やだー、

 

佐伯   

板橋って、こう、川が流れてて、普通に桜の名所だし、木とかその川に沿って生えてるんだよね、だから若干、暗いんだよね、だからなのか俺、、最初いたのわかんなくて、って、いうのも俺、部屋に帰るつもりでいたのに、いつの間にか板橋の上を歩いていたって事態への戸惑いがかなり大きくて、最初、わかんなかったんだよね、それが人だって、立っていたっていうより、いたって印象で、生えていた、っていうより、伸びていたって印象で、黒い、モヤモヤした影みたいなの、が、そこにポツンっていたって印象で、で、俺、引き返そうとするじゃない、そしたら、

 

木田くん 

あのう、

 

佐伯   

って、声かけられて、声の印象は、細いようでいて、図太いようでいて、

木田くん あのう、

 

佐伯   

っていうか、声、かけられた、え、マジ、これ、人、だよね、あのう、か、あのう、って声かけられてるのか、今、振り返ろうか、突っ走って逃げようか、めっちゃ一瞬迷ったんだけど、

 

木田くん 

あのう、

 

佐伯   

はい?

 

木田くん 

お召し物をくださいませんでしょうか?

 

佐伯   

はい?ってこの時、俺はこの人のことを初めてちゃんと見たわけね、あ、なんだ、普通に人じゃん、って、え、普通に人か?

 

木田くん 

お召し物をくださいませんでしょうか?

 

佐伯   

お召し物、って服ってこと?、服、くれって言ってんの?、俺に?

 

木田くん 

はい、

 

佐伯   

え、めっちゃ服着てるじゃん、めっちゃ服着ててめっちゃあったかそうじゃん、何、そのお願い、初対面の俺にするお願いかって俺思って、ええええ、なんだろう、なんて言おうかなって迷ってたら、

 

木田くん 

いや、あれですよ、あなたが本当にどうしてもその服?、上着、あげたくないとかなら別に良いんですよ、いや、むしろ家の中の全くどうでも良い服とかでも私全然良いです、全然良いですよ、ただなんだろう、あれなんですよ、サーむいんですよ、異常に、サーむい、この橋、いやはやまいりましたよ、こっちだって好き好んでこんなことやってるわけじゃないんですけれどもね、えー、なんでこんなことやってるんだろう、えー、自分で自分が意味わかんなくなってきた、あ、待って、えっと、あのう、そのう、え、どうしよう、恥ずかしい、見ず知らずの人にお召し物をくれだなんて、えっとお、あのう、え、ねえ、すごいこと言っちゃったな、え、どうです、実際、どうです?そんなこと言われて、

 

佐伯   

あー、いや、初めての体験すぎて、なんだろうな、初めての体験すぎて、人生で初めてところてんをこうにゅーって出した時以上に驚いてます、、って何を伝えたいのかよくわからんコメントしちゃったんだけど、

 

木田くん 

木田です、

 

佐伯   

木田?

 

木田くん 

名前です。

 

佐伯   

あ、名前?、木田?、

 

木田くん 

幽霊です。

 

佐伯   

え、何?

 

木田くん 

幽霊です、私、

 

佐伯   

え、幽霊、幽霊なの、木田さん、

 

木田くん 

木田くんで良いですよ、

 

佐伯   

あ、木田くんでいいの?

 

木田くん 

え、木田くんで良いのかな?

 

佐伯   

え、木田くん、幽霊なの?

 

木田くん 

もっと良い呼び名ないですかね?木田くん以外に、っていうか、あなたは?

 

佐伯   

あ、俺、佐伯、っていうか、木田くん、幽霊なの?

 

木田くん 

あ、わたし、趣味が横断歩道のあのう、時差式信号機についてるかったい、あっかい、ボタンあるじゃないですか、あれを押すのが趣味です、

 

佐伯   

え、あれを、押すのが、趣味、どういうこと?

 

木田くん 

あれをカチカチ押すのが趣味です。

 

佐伯   

あれを、カチカチ押すのが趣味?どういうこと?っていうか幽霊なの?

 

木田くん 

あ、間違えたな、

 

佐伯   

え、何が、

 

木田くん 

初対面の人への距離の取り方間違えた。

 

佐伯   

木田くんさんは、幽霊なんですか?

 

木田くん 

ちょっとちょっとちょっとちょっとおー、やめてやめてー、木田くんさんとかいうのちょっとちょっとやめてやめてー、こちょこちょしちゃうぞう。

 

佐伯   

怖、

 

木田くん 

あ、間違えたな、初対面の距離の取り方間違えたな、

 

ともみ  

変な人に関わっちゃダメだよ、

 

あや   

え、変態に遭遇した話、

 

佐伯   

ってなって、俺もうあれだって、帰ろうって、ダッシュで、逃げようって、

 

木田くん 

あ、そろそろ帰りますか?

 

佐伯   

あ、

 

木田くん 

って言葉、難しくないですか?

 

佐伯   

は?

 

木田くん 

あの、飲み会終わり間際の、そろそろ行きますかね、って誰がどうやってあの言葉発するんでしょうか?

 

佐伯   

え、なんの話?

 

木田くん 

飲み会ってのが、どうも、僕には難しくてですね、どうも、なんだろう、わからないんですよ、振る舞い方が、まずサラダ、これ、僕としてはもう、みんな、一人一人自分で好きな量取っちゃって、ってのが幸せだと思ってるんだけど、この座組の中に一人でも、一人でも小皿に取り分けた方が良くない?、って思ってる人が一人でもいるんじゃなかろうかって不安がどんどんどんどん膨らんで膨らんでしまって、、「あ、分けますね」って言っちゃうんですよ僕、分けたくないんだけど、絶対に各々が好きな量、自由に取ったらハッピーだよねってわかってるのに取り分けようとしちゃうんですよ、でもシーザーサラダ、シーザーサラダの卵ってこれ、どうすれば、良いんですか?、混ぜちゃって良いんですか?、でもサラダに生の卵、乗っかるの嫌な人もいそうですよね、フレッシュな緑色にベトベトした黄色いのがつくの嫌な人いそうですよね?、でも大抵の人は卵乗っかったシーザーサラダ食いたいですよね、っていうかなんで飲み会ってサラダ頼むんですかね、なんでこの世にサラダってあるんですかね、サラダってなんなんですかね?、サラダって名前調子乗ってませんか?、いっそのことインドカレー屋のサラダみたいに小分けにして出してくれたら、

 

佐伯   

ヤバイヤバイヤバイヤバいヤバーイ奴だった、緊急にここから立ち去らなければならないってダッシュした途端、

 

木田くん 

え、お召し物恵んでくれませんかね?え、お召し物恵んでくれませんかね?え、お召し物恵んでくれませんかね?

 

佐伯   

って、追ってきて、

 

ともみ  

こわ、

 

佐伯   

すんごい、あの、上着引っ張ってくんのよね、すごい、あの、上着だけ、めちゃ引っ張ってくる。でも全然力なくて、お、意外に勝てるぞと、ギリギリ勝てるぞと、

 

木田   

ああ、ギリギリ負けそう、

 

  二人、わちゃわちゃと、舞台上をわちゃわちゃする。

 

佐伯   

しつっこいな、

 

ともみ  

喧嘩にもなってないんだけど、なんか、あるじゃん、小学生の、小学生ていうか幼稚園児とか、これ俺のモンだぞ、っておもちゃかなんか取り合ってる感じ、

 

あや   

あー、

 

佐伯   

しつっこいな、

 

ともみ  

佐伯くんはこの時、

 

佐伯   

え、これ、どこが幽霊やねん、

 

ともみ  

って思っていて、

 

佐伯   

幽霊、めっちゃさわれますやん、めっちゃ存在してますやん、

 

ともみ  

って佐伯くんは群馬出身なんだけど、何故か関西弁で思っていて、

 

佐伯   

わかったわかった、わかったわかった、

 

ともみ  

って佐伯くん、諦めようって、もう、いい、もう、どうでもいいって、上着脱いで、木田くんにあげちゃったのね、

 

あや   

追い剥ぎじゃん。

 

ともみ  

この時、佐伯くんがあげた上着は、わたしが北海道旅行のお土産に買ってきた、黒板五郎ジャンパーだったんだけど、

 

あや   

黒板五郎ジャンパー?

 

ともみ  

ほら、北の国からの、

 

あや   

知ってる?

 

山下   

田中邦衛でしょ、じゅーん、ほたるー、って言う人。

 

あや   

わたし、北の国から、全然知らなくて、多分、夫もわたしもともみも佐伯くんって言うともみの彼氏も、絶対それ見てた世代じゃないと思うんだけど、多分わたし、北の国からって単語自体全然ピンときてなくて、え、北の国って、ねえ、北の国って、ねえ、なに、ミサイル撃ってくる話?って、

 

山下   

そんなわけないでしょ、この話、いつ終わるの?

 

あや   

え?

 

山下   

パスタできたよ、

 

あや   

ありがとうー、確かに、確かにこの話、長いね、え、わたし正直もっと夫の悪口っていうか、なんだろう、夫の悪口っていうか、なんだろう、夫の悪口ではないんだけど、もっと、なんだろう、溜まってるあれこれをベシャリ散らかしたい思いがあったんだが、なんだろう、え、ちょっっと、流石に、寒くない、この時期の公園は、寒くない?

 

ともみ  

あ、わたし、ブランケット持ってるよ、

 

あや   

あ、ありがとう、そういう問題ではなくてなんだろう、場所変えない?って言いたいだけなんだけど、なんだろう、

 

ともみ  

わたし好きだなあ、この時期の、この空気、息吸うでしょ、すると、すうーって入ってくる空気がね、冷たくて、気管が、異物異物したものに擦れる感じがして、わたしって存在自体が、異物異物したものに思えてきて、って言うか、もはや世界って、異物しかいないんじゃないかって思えるんだけど、はい、ブランケット、あったかいよ、って、え、何食ってんの?

 

あや   

え、パスタ。

 

ともみ  

パスタ、買ってたっけ?

 

山下   

美味しい?

 

あや   

あ、うん、美味しいよ、って、美味しいのかな、正直わたし、パスタもフォーも白滝もおでんもちゃんこ鍋も三色団子も何食べても美味しいって言っちゃう人種だし、ある程度のラインを超えていたならばそんなに文句を言わない人種だし、って言うか、そんなにそこまで、力点をそこまで食に置いていない人種で、わたしが今、気にしているのは、夫がパスタを作ったってことはパスタを茹でた鍋とパスタを湯切りしたザルとパスタソースをからめた鍋の三つとまな板と包丁と、おそらく細々としたスプーンやら小皿やらが洗い物置き場に溜まっているってことで、わたしは夫に対して、この、夫に対して、本当に、なんの申し分もなく、良い人で、なんの欠点もないんじゃないかって思えるくらい良い人で、すっごい可愛いし、すっごく優しいし、愛しているんだけど、そんな夫のイッチバン許せないところがここなの、料理作る時に出た鍋やら皿やらはちゃんと料理しながらチャチャっと洗おうよって点で、これ、何回も夫に対して言ってるんだけど、夫の言い分としては、

 

山下   

そんなの洗う前に熱々状態で食べようよ、早く、ほら早く早く、食べよ、

 

あや   

うっせえ、

 

ともみ  

そーれは、わたし、山下さん派だな、

 

あや   

え、なんでなんで、嫌じゃん、食べ終わった後、洗い物する時に、食器にプラスされるわけでしょ、鍋とかザルが、愕然としない?その光景見て、イラッてしない?

ともみ  さいっこうのご飯をわたし食べたいの、さいっこうのご飯を毎度毎度の如くわたしは食べたいの、毎度毎度の食事を人生最後の食事にしたいの、だから正直、フォー食べてる時に怪談の話?って言うか怪談でもないんだけど、なんなの、この話、

 

佐伯   

穴澤くんって友達がいて、

 

ともみ  

え、穴澤くん?

 

木田くん 

あら、わたしの話は?

 

佐伯   

待って待って、ちゃんとするから、ちゃんと繋がるから、

 

ともみ  

木田くんの話ってどうなったの、

 

佐伯   

待って待って、ちゃんと繋がるから、

 

あや   

パスタの鍋の話は?

 

佐伯   

それは知らない、それは、ともちんとあなたの間で行われてる会話であって、俺、知らないじゃん、その場にいないし、関係ないじゃん、

 

あや   

え、だってだって、わたしはだって、この話もっとしたかったのに、

 

山下   

ごめん、テレビ見ていい?

 

四人   

ダメでしょ、

 

山下   

ごめん、正直この話、なんなの?、木田くんの話したいの、ともみちゃんとの話したいの、何を僕に伝えたいの?、ごめん、明日仕事なんだけど、

 

あや   

あーーーー。なるほどね、ごめん、要点だけ伝えるとね、

 

ともみ  

穴澤くん、だっけ?、穴山くん、だっけ、その、穴なんちゃらくんってのは、佐伯くんの中学校の同級生らしいのね。

 

佐伯   

俺、木田くん見てて、穴なんちゃらのこと思い出してたのね、穴なんちゃらってのは、クラスで、なんも目立つところのない存在で、運動ができるわけでもなければ頭がいいわけでもない、いじめられてるわけでもなければもちろん誰かをいじめるでもない、特徴があるとすれば、クラス中でイッチバンでっかくてイッチバンくっろい消しゴムを持ってる奴だったんだけど、それでいつも小西っていうひょろながいやつとボソボソ喋っててね、小西と穴なんちゃらが何を喋っていたのか誰一人全く知らなくて、っていうのは、ある日ね、小西と穴ちゃらが弁当食ってるとこにね、俺潜入したことがあったのよ、

 

ともみ  

待って、その話大丈夫?木田くんの話からまた外れていってない?

 

佐伯   

大丈夫大丈夫、いや、大丈夫じゃないか、この話また遠くなっていっちゃうかもしんない、

 

木田くん 

ちょっと佐伯さん、マジで勘弁してくださいよお、俺の話俺の話、ちゃんとして、ちゃんと伝えてくださいよお。

 

佐伯   

ごめんごめん、木田くんの話するね、俺と木田くん、板橋の上で、上着の取り合いをわちゃわちゃとしてて、こうやって、

 

  二人、わちゃわちゃする

 

ともみ  

うん、聞いた、あ、お会計お願いしまーす。

 

佐伯   

で、最終的にそのわちゃわちゃ、十分くらいしてたのかな、体感的には、一時間くらいしてたんだけど、

 

ともみ  

なっが、って、たっか、え、フォーってこんなするっけ?

 

佐伯   

バインミー食べたからね、え、聞いてる?

 

ともみ  

聞いてる聞いてる、

 

佐伯   

板橋が架かってる川に沿って緑道が通ってて、俺と木田くん、いつのまにかその緑道の公園みたいなとこで、ゼーハーゼーハー二人して、横になってたんだけど、

 

佐伯、木田くん  

ゼーハーゼーハーゼーハーゼーハー、

 

佐伯   

やるじゃん、

 

木田くん 

あなたこそ、

 

佐伯、木田くん  

ゼーハーゼーハーゼーハーゼーハー、

 

佐伯   

食べる?って、俺、三色団子、渡して、

 

木田くん 

ありがとうございます。あ、服も、

 

佐伯   

いいよいいよ、そんな欲しいなら、持って来な。って、二人で並んで、三色団子食ってたんだけど、

 

木田くん 

すごい、なんだろ、すごい、青春って感じ、しますね。

 

佐伯   

ああ、こんな動き回ったの、何年ぶりだろ、って俺と木田くん、好きな女性を巡って喧嘩して、一周回って友達になる、みたいな昔の日本映画によくあるあの雰囲気漂っていて、

 

ともみ  

あ、細かいのある?26円ある?

 

佐伯   

え、聞いてよー、

 

ともみ  

聞いてる聞いてる、でも今26円の方が大事だから、

 

佐伯   

話さえぎらないでよ、こんな二人して、ゼーハーゼーハー、ってまでしてんだから、

 

ともみ  

話さえぎらないでよっていうか、今、お会計してんだから、そんな変な気持ち悪い話レジの前でしないでよ、ねえ、思わない?

 

あや   

思わないっていうか、そんなレジ前で佐伯くんとごちゃった話までしてくれなくていいんだけど、木田くんの話だよね?話したいの、全然木田くんの話進んでいかないじゃん。

 

ともみ  

いや、正直わたし、木田くんの話なんてどうでもいいから、っていうかこの後、本当、最悪な展開が待っていて、その話こそ聞いて欲しい話なの、

 

佐伯   

え、じゃあ、俺、払っとくよ、カードで、あ、あれ、財布、ない、あれ、財布、どこ行った?

 

ともみ  

え、マジ?

 

佐伯   

あれ、タクシー乗った時持ってたよね、財布、

 

ともみ  

あ、うん、払ってた、

 

佐伯   

あれ、払ってたってことは、タクシーに置き忘れてないよね、払ってたんだから、わざわざタクシーに財布置くみたいなことしないと置き忘れないわけだから、

 

ともみ  

机は?

 

佐伯   

あ、机?、あ、机っていうか席にあった、鞄入れのとこ落ちてたわ、テヘテヘ、

 

ともみ  

もーう、あーよかったー。で、木田くんの話なんだけど、

 

あや   

え、今の話なんなの、今のくだり話す必要なくなくない?

 

ともみ  

あるあるあるよ、

 

あや   

ないないないでしょ、財布なくなって大変だったーって話ならまだわかるけど、

 

ともみ  

ないないないって、あはは、ないないないって、あはは、いないいないばあみたいだね、

 

あや   

うっせえ、

 

佐伯   

木田くんの話ね、木田くん、泣いてたんだよね。わちゃわちゃした後、二人で団子食ってる時、目頭押さえながら、顔上に向けて、ウッウって、ウッウッ、て、なんていうの、男泣き、みたいなポージングで、こういう、

 

木田くん 

ウッウッ、俺悔しいすわ、俺本当はこんなことしたくないんすわ、でもせずにはいられんのですわ、ウッウッ、

 

あや   

え、幽霊って泣くの?

 

木田くん 

幽霊ってのは泣きます。むしろ幽霊こそ泣くと言っても過言ではないくらいですよ、感情表現ってのを思い浮かべてください、つまり喜怒哀楽、喜んでる幽霊、楽しんでる幽霊、どうっすか?幽霊ぽいっすか?論外でしょう、喜んで楽しんでる幽霊、原宿でタピオカーってなってる幽霊なんて論外中の論外なんですよ、

 

あや   

お、ちょっと古いな、

 

木田くん 怒り、確かに怒りってのはありますね、「この野郎ふざけんなよ、この野郎、いてこましたろかいな」って、怒ってる、怒ってる幽霊、いそうですよ、ここ、でも、単純に怒ってると言えますでしょうか、どっちかっていうと怒り、というより、恨み、ってニュアンスの方が強くはなかろうか、と、恨み、ってのはなんだ、恨みってのはつまり、悲しみですよね、つまり前提として幽霊は、悲しんでいる、悲しみの前提で怒っているし、悲しみの前提で泣いている、悲しみの前提で笑っている、幽霊の前提は悲しみではなかろうか、

 

ともみ  

って木田くんによる幽霊論が展開され始めるんだけど、いつの間にか感情論になっていて、

 

木田くん 

悲しい、寂しい、虚しい、切ない、愛しい、苦しい、おどろおどろしい、なんなんだ、なんなんだ、これ、どうなってるんだ、これ、なんで私ここにとどまってるんでしょうか?、全く思い当たるふしがないんですけど、なんで私こんなとこでお召し物恵んでもらいたがってるんだ、全くもって自分の行動が理解できないんですけど、腹立ってきた、こんちくしょう、あ、アンガーマネジメントが必要だ、アンガーマネジメントアンガーマネジメント、つまり、6秒、数えさせてもらって良いでしょうか、1、2、3、4、5、6、7、あ、7までいちゃった、7までいっちゃった、数えすぎちゃった、ちょっとちょっとちょっとー、ツッコミどころツッコミどころー、え、、、、助けてくれません?、え、、、、、え、マジでマジで、え、、、、、マジで、うっ、ううっ、ううう、助けてくれませんか?、私これからどうすればいいんでしょう、

 

佐伯   

え、どうすれば良いんでしょうって言われても。え、そもそも木田くんは、本当に幽霊なの?、どっからどう見ても、幽霊感がないんだけど、

 

木田くん 

あの、えっと、どうしよっか、えっと、そのう、いやあ、困ったな、何から話を始めればいいのやら、

 

佐伯   

と、ここから、ながいながーい、木田くんの人生が語られ始めるわけ、

 

ともみ  

って、デート中なんだけど、佐伯くんが木田くんの人生を語り始めて、その時私たちは井の頭公園にいたんだけど、わー、見て見て、アリー、めっちゃアリいるよー、アリー、触覚の動き早ー、

 

木田くん 

思えば恥の多い生涯を過ごして来ましたわ、恥が多すぎて、あの、えっとう、穴があったらこう、穴にこう、暖房器具とか間接照明とか持ち込んで、かまくら的なものつくってあったまりたいですわー、

 

佐伯   

的な人生を過ごしてきたらしいのね、木田くん、

 

ともみ  

へー、ってわたしのアリへの触覚愛を込めた反応は無視されて、なっがーいなっがーい木田くんの人生についての話を、佐伯くんは話し始めようとするんだけどね、人が話すなっがーいなっがーい話を、はっきりと明確に思い出せるわけなんてなくてね、

 

佐伯   

えっと、なんだっけ、秩父かどっかで生まれたらしいんだけど、なんだっけ、要するに、普通な人生を普通に生きて来て、普通な生涯を送らせていただきましたが、みたいなこと話していて、あ、ごめん、なんだっけ、とにかく可哀想なやつなのよ、

 

木田くん 

え、すみません、もうちょっと頑張ってくれませんかね?

 

佐伯   

なんだっけ、なんかめっちゃ喋ってたよね、

 

木田くん 

はい、めっちゃ喋ってたんで、もうちょっと頑張って、伝えて欲しいな、ともみさんに、

 

佐伯   

あー、なんだっけ、

 

ともみ  

びっくりしたの、本当に、びっくりしたの。

 

あや   

え、何?

 

ともみ  

わたしと佐伯くんが、井の頭公園のちっさい動物園に行ったときね、

 

佐伯   

ごめん、本当、ごめんなんだけど、

 

ともみ  

って急に謝ってきて、佐伯くん、

 

佐伯   

ごめん、本当にごめんね、今日、実は来てて、

 

ともみ  

って佐伯くんが指さした先には、喫茶こもれびっていう、動物園すぐ入ったとこにある、なんだろう、屋外の飲食スペースみたいなところで、そこにちょこんと座っている男性がいて、めっちゃなんだろう、着膨れしてるんだけど、っていうかわたしが佐伯くんにあげた黒板五郎ジャンパー着てるんだけど、っていうかめっちゃなんか食べてるんだけど、え、マジ?

 

佐伯   

マジ、マジ、

 

ともみ  

え、なんで、なんか、めっちゃ食べてるんだけど、

 

あや   

さっきから思ってたんだけど、幽霊ってご飯食べるの?

 

ともみ  

あ、食べるらしいよ、その時食べてたのは、ゾウさん弁当っていう、井の頭公園激推しのゾウさんの形したチキンライスらしいんだけど、いや、待って、もはや幽霊っていうか、何?、わたしからしたら全然人にしか見えなかったんだけど、え、なんで?

 

佐伯   

えっと、あのう、そのう、さ、木田くんがさ、来たいって言うから、

 

ともみ  

え、わたしとのデートだよね、なんで木田くん来ちゃうの、おかしくない?

 

あや   

あー、そりゃあダメだ、佐伯くんやっちゃてるわ、

 

佐伯   

ごめん、ごめんごめんごめんごめん、

 

あや   

あー、佐伯くん、ああー、だ、ああー、だ、佐伯くん、ああー、だ。

 

佐伯   

え、そんなダメなこと?

 

あや   

ダメでしょ、一番やっちゃいけないでしょ、ねえ?

 

山下   

え、なんでそもそも、佐伯くんはデートに木田くんを連れてきたの?

 

佐伯   

よっくぞ聞いてくれました。

 

木田くん 

えっと、あのう、うっと、そのう、僕、もしかしたら、

 

佐伯、木田くん  

寂しいだけなのかもしれないですよ。

 

佐伯   

って言うわけですよ、三色団子食いながら、俺たち、芝生の上で、寝転んでたあの夜のことね、

 

木田くん 

えっと、あのう、うっと、そのう、僕、親友って言われるような奴とか、いわゆる、えっと、そのう、ジャイアン的な言葉で言うと心の友的な、心を許せる、なんでも喋れる、なんでも気を遣わずに喋れる友達みたいなのが、えっと、そのう、一人もいなかったわけですよね、

 

佐伯   

あーーーー、わかる、わかるって言うのは、俺自身、振り返ってみると俺自身もいない気がするっていうのと、やっぱり俺、穴澤のことを思い出してて、穴澤には小西っていう、ヒョロながくて、ブラインドタッチがやたらと速くて、味噌汁入れれるタイプの筒形のでっかい弁当箱をいつも持ってきてる小西って奴がいつも一緒にいたから、もしかしたら穴澤にとっては小西が、ジャイアン的な言い方で言う心の友だったのかもしれないんだけど、ごめん話がまたずれてきてる、とにかく俺、穴澤のこと思い出してて、高校の時一緒に弁当食ってた奴、俺の場合、大河内とかパミーとか、シバタリアンとか榎本とか、ヒロポンジュニアとかマスコエンドジョンソンとか、そいつらとはもう全然連絡も取り合ってもいないし、今後ももう会わないかもしれないんだけど、俺、木田くん見てると、そいつらよりまず先に、何故だか穴澤のこと、思い出してて、

 

木田くん 

気を遣いすぎるんですよね、私、

 

佐伯   

って、三色団子食べ終わって残った串を、ドカベンの岩城みたいに口で上下に動かしながら木田くんは遠くを見つめてて、

 

木田くん 

気を遣いすぎるんですよね、私、

 

佐伯   

っていうか、正直、結構、みんなそうだと思う、そうじゃない人よりそういう人の方が正直、全然多いと思う、

 

木田くん 

人と喋るというのが、えっと、あのう、気を遣うってこととイコールになり始めた時、そのう、なんですね、わたしは、あれですね、全てのことを最悪の方向に想定して考える癖がついてしまいました、あ、そうですね、わたしは、誰かに殺されたわけでもありませんし、自殺したわけでもありません、親も姉も職場の上司も後輩も一切恨んでなどいません、だけど、そのう、なんでしょう、正直申しますとわたし自身、全てのことがどうでもいいことだと思えてならなかったのです、にもかかわらず、人に嫌われたくない、これ、マジで意味わかんないんですけど、なんでしょう、人からよく思われたいってなんなんでしょう、一つの言葉を喋る時、付随してくるモチャモチャした付随物が気になってしょうがないんですよ、この書類作成、こっちでやっときますよ、って言った後に、わからなくなるんです、え、今の言い方、大丈夫だったか、え、今の言い方、君、どうせできないんだからこっちでやっときますよって捉えられてないかって、違うんですよ違うんですよ、ただただただただただの優しさでありますよ、本当ですよ、今日はすんごく楽しい日だったなあと言った時に、あれれれ、待てよ、前に君と会った時楽しくなかったってことじゃないよ、そういう意味で言ったんじゃないからね、勘違いしないでね、え、どうですか、わかんないですけど、疲れました、わたしは疲れ果てていました、って、板橋で、あ、いや、I橋で、愛のつく橋、I橋で、わたしは何か無くしものをした気がしたんですよ、えっと、あのう、そうだな、誰かに何かを盗まれた気がしたんですよ、そのう、とても、そのう、とてもとても大切なものですよ、絶対忘れちゃいけないような、あんのう、大切なものな気がするんですが、わかんないんです、と、いうのもわたしにはやっぱり、生前こだわっていたものが何一つないんです、気づいたんです、やり遂げたかったことも、叶えたかった夢も、こだわりのファッションも行きつけの居酒屋もない、時計も靴も眼鏡もスマホも万年筆も車もマウンテンバイクも何一つ興味を持てなかったのです。そんなわたしは、なんで、死んでまでも今ここに存在しちまってるんでしょうか、汚れちまった、汚れちまった自意識が、わたしをここに縛り付けているとでも申すのでしょうか、ああ、ああああーー、あ、あれだなあ、でも思い返してみると、あれだなあ、女の子とかと、あれだなあ、デ、デートとか、あのう、あれだなあ、あれしたかったなあ。

 

佐伯   

え?

 

木田くん 

え、あ、え、あのう、えっと、そのう、これはなんだ、とても、あれなんですけど、とても、えっと、そのう案件なんですけど、どうなんですか、佐伯さんて彼女いるんですか?

 

佐伯   

いるよ。

 

木田くん 

うーわ、いるんだ、うーわ、やっぱいるんだ、うーわ、いそーう、いそーうな雰囲気ぷんぷん出してるー、うーわ、前髪とか、前髪とかいそうな雰囲気出てるー、

 

佐伯   

ごめんごめんね、マジでごめんね、俺、木田くん、俺から誘ってて、

 

木田くん 

え、マジっすか、明日、デートなんすか?

 

佐伯   

ごめん、マジで、マジでごめんね、俺絶対、いや、もしかしたらともみん、嫌がるかもしれないなって、思って、うん、結果直前まで言えなかったんだけど、うん、ごめんごめんね、マジでごめんね、

 

ともみ  

いやでしょ、絶対いやでしょ、なんでデートに幽霊連れて来んのよ、

 

佐伯   

井の頭公園来たことないって言うから、

 

ともみ  

わかるよ、サッくんが木田くんに対して、なんかしてあげたいって気持ちになってるの、うん、わかるよ、そういうとこ優しいし、そういうとこ好きだし、でも待って、デートに連れてくるのは違くない?、デートに連れてこなくてもよくなくない?、もっとわたしに気を遣ってよ、木田くんよりまずわたしに気を遣ってよ、え、待って、おかしくない?、考えてみたら今日、なんかわかんないけど、フォー食ってる時から木田くんの話しかしてなくない?、井の頭公園来ても木田くんの話、挙げ句の果てにご本人登場って、なんなんでしょう、デートの雰囲気とやらはどこへ行ってしまったのでしょう、大事なのって、雰囲気じゃん、つまり気じゃん、なんで、どこ行くか考えてないの?、なんで、そんな適当に乗っちゃったタクシーの運転手おすすめのフォーに行こうってなるの、うまかったけど、フォーうまかったから大満足なんだけども、さ、え、やだよ、やだよっていうのは、佐伯くんの今日の態度がやだよ、ないないないよ、ないないない、ないないないのいないいないばあの、ねるねるねるねマンナンライフよって自分でも全く意味わからない言葉で佐伯くんを罵倒してる時にね、

 

あや   

うん、全く意味わからない、

 

木田くん 

あのう、

 

ともみ  

って声、かけられて、

 

木田くん 

あのう、

 

ともみ(同時)  

って、声の印象は、重ったるいようででいて、軽々しいみたいな、

 

佐伯(同時)   

って、声の印象は、細いようでいて、図太いようでいて、

 

ともみ  

声で、

 

木田くん 

えっと、あのう、そのう、弱ったな、まあ、いずれにしても、どっから話しましょう、えっと、そのう、そーうだな、うーんと、いやはや、まいったぞ、そーうね、そうだそうだ、そうしよう、えっとお、そりゃああれですね、そりゃあ、困りますよ困りますよねえ、デートだもん、デートなのに、わたしいちゃあ困りますよ、そりゃそうだ、

 

ともみ  

いや、あのね、

 

木田くん 

みなまでいわんで、みなまでいわんでよいよい、

 

ともみ  

待って、待ってね、わたしが怒ってるのは、あくまでも佐伯くんに対してであって、木田くんに対しては、わたし、全然怒ってないよ、全然怒ってないから、待って、

 

木田くん 

あ、そういうアレではないんですよ、あ、そうねそうね、そういうアレではないっていうか、今ね、そうでしょ、今の僕、お二人にとって、とっても気を遣われてる存在なわけですよ、いや、そりゃそうでしょうとは薄々思ってたけど想像以上に気を遣われてる存在なわけですよ、いや、なんだ、弱ったな、昨日、エッキーに誘われた時、もっとラフな感じかと、もっとラフーな感じで動物と触れ合ったりして想い出づくりできるもんだと、思ってましたから、

 

ともみ  

え、

 

木田くん 

帰りますわ、

 

佐伯   

ちょっ待てよ、木田くん、

 

木田くん 

エッキー、ありがとうな、君、良い奴だよ、

 

ともみ  

エッキー?

 

佐伯   

待ってよ木田くん、

 

ともみ  

佐伯くんて、エッキーって呼ばれてるの?

 

あや   

エッキーって言いづらくない?

 

ともみ  

ね?言いづらいよね?エッキーって、エッキーって、どうなったらエッキーてあだ名が生まれるの?自分から呼んでって言うの?それとも向こうから勝手に呼んで来るの?

 

あや   

え、世の男どもの呼び名ってどうやって決まるの?

 

山下   

世の男どもの呼び名?

 

あや   

例えば、山下って、これまでどうやって呼ばれてきたの?

 

ともみ  

え、あやって山下さんのこと山下って呼んでるの?

 

あや   

あ、え、あ、うん、そうだけど、何か?

 

山下   

えー、なんだろ、なんて呼ばれてきたんだろ、僕?

 

ともみ  

え、山下って呼び方はなくなくない?全然恋人感ないじゃん、

 

あや   

いやー、山下は山下なんだよね、付き合った時からわたしは山下のことを山下と呼んでいて、結婚してからもわたしは山下のことを山下と呼んでいて、全然恋人っていうより、なんだろう、山下は山下って感じで、

 

ともみ  

あー、そういうとこなのかもしれない、

 

あや   

そういうとこ?

 

ともみ  

ね、わたしと佐伯くんって、うまくいくと思う?

 

あや   

えー、こ、れ、は、慎重に答えねばいかん質問だけど、そーんなこと急に私に聞かれましても、聞かれましても聞かれましても、って心の中で繰り返しながら、えー、なんで?

 

ともみ  

え、なんでだろう、なんでそんなこと言っちゃったんだろう、

 

あや   

と言いながら、ともみは飲み終わった缶チューハイの空き缶をいじくりまわしてて、静かな公園にプルタブがプーンって、プーンって、弾ける音だけが響いていて、わたしは、なんだろう、優しさで、この上ない優しさでこの子を包んであげたいんだけど、この季節の公園、外、流石に寒くて、どっか、行かない?、どっか、店入らない?、っていうかカラオケ行かない?、って思いつつ、いや、でも、今そんな雰囲気ではないかって口に出してはいないんだけど、

 

ともみ  

え、カラオケ行く?

 

あや   

思い、通じて、わたしたちは、カラオケを探しに、夜の街中へカムバックって、歩きはじめるんだけど、え、なんの話だっけ?

 

山下   

木田くんの話だよね。

 

あや   

それはわかってるんだけど、え、なんの話してたっけ?

 

ともみ  

だからね、だから、なんだかんだあってね、なんだかんだあって、木田くんが帰るのを佐伯くんは頑張って阻止したわけよ。

 

佐伯   

今日だけ、今日だけだから、今日だけ、一緒に、楽しい動物園すごそう、今日だけだから、楽しもうよ、

 

ともみ  

って、佐伯くんは、なんだろう、わたしが今まで見てきた彼の中で、一番、燃えているというか、熱情的というか、パッション漂っていて、

 

佐伯   

俺、木田くんに楽しんでもらいたいだけだから、

 

ともみ  

って、よくわからない使命感を抱えていて、

 

佐伯   

なんなら俺、今日の動物園を人生史上最高の動物園体験にしたいと思っているから、

 

ともみ  

は?、じゃ、なんで井の頭公園?、せめて上野公園行こうよって、思ったんだけど、多分佐伯くんは、わたしの家が近いから、って理由で吉祥寺に来てくれただけなんだけど、佐伯くん、そういうとこあんだよね、つまり詰めが甘いっていうの?、井の頭公園じゃなくて上野公園に行った方が絶対良くない?、ガラパゴスゾウガメいるし、って思いながら、しーぶしぶ、しーぶしぶ、わたしは了解して、三人で動物園を楽しむことになったってわけなんだけど。

 

佐伯   

うおー、見て、見て、ミーアキャットだよ、

 

ともみ  

ほんとだー、猿っぽーい、

 

木田くん 

ね、猿っぽいね、

 

  間。

 

佐伯   

うわー、え、見て見て、猿、

 

ともみ  

うわー、猿っぽーい、

 

木田くん 

本当だ、猿っぽー。

 

  間。

 

佐伯   

うわー、リス園、リス園ってすごいね、テンション爆上がりだね、

 

ともみ  

え、リスどこ?

 

木田くん 

リス、どこでしょうかね?

 

佐伯   

全然リスいないね、リスいないと、あれだね、ただの、園だね、囲いのある、囲いのある、茂みだね、

 

ともみ  

ぜんっぜん楽しくないんですけど、人生史上最低レベルの動物園体験なんですけど、

 

佐伯   

うーん、まああれよね、茂ってないとリスもさあ、リスも茂ったところでひっそりとしてないとリスもさあ、大変よね、

 

木田くん 

あー、だよねだよね、リスもね、リス社会もね、大変そうだよね、きのみかじったり、歯とか痛くなりそうですし、

 

  間

 

ともみ  

ぜんっぜん楽しくないんですけど、

 

木田くん 

ともみさん、

 

ともみ  

って、木田くん話しかけてくるのね、たまに、

 

木田くん 

ともみさん、

 

ともみ  

はい、何?

 

木田くん 

好きな乗り物はありますか?

 

ともみ  

好きな乗り物?、初めてそんな質問されました、なんだろう、観覧車、とか、

 

木田くん 

ああー、観覧車か、観覧車って確かに乗り物だね、観覧車、面白いね、乗りたいなあ。

 

佐伯   

あ、観覧車、行く?

 

ともみ  

この辺に観覧車なんてないよ、

 

佐伯   

あ、アヒルボートならあるよ、あっちの池に、

 

ともみ  

全然観覧車と違うじゃん、

 

木田くん 

うわー、アヒルボートいいっすね、楽しそうだなあ、

 

ともみ  

いやだあ、絶対、絶対アヒルボート乗りたくない、これ、口に出してないやつね、

 

佐伯   

二人で乗ってきたら?

 

ともみ  

え、

 

佐伯   

二人で乗ってきたら?アヒルボート、

 

ともみ  

何言ってんの?この人、

 

木田くん 

え、いいんですか?

 

ともみ  

いや、良くないだろ、

 

木田くん 

うーれしいなあ、よろれいヒーだなあ、

 

ともみ  

いや、全然よろれいヒーじゃねえよ、

 

佐伯   

俺、売店で甘酒買ってくるわ、

 

ともみ  

甘酒とかふざけた飲み物飲もうとすんなよ、え、乗りたくない、

 

佐伯   

え、

 

ともみ  

ヒルボートとか乗りたくない、

 

佐伯   

え、なんで、

 

ともみ  

やでしょ、普通に考えたらわかるでしょ、なんで、わたしと木田くんで乗らなきゃいけないの?、おかしいでしょ?

 

木田くん 

え、えっと、すみません、

 

ともみ  

木田くんは謝らなくていいから、木田くんは何にも悪くないから、

 

佐伯  

ヒルボートなんで乗りたくないの?

 

ともみ  

楽しくないし、意味わかんないし、ぜんっぜん意味わかんないし、え、なんでわたしと木田くん二人で乗らないといけないの?、ぜんっぜん意味わかんないんだけど、

 

佐伯   

いけないなんて言ってないじゃん、乗ってきたら?、って提案しただけじゃん、

 

ともみ  

その提案が意味わかんないの、そんな提案思いつく時点で、ないないないすぎて意味わかんないの、え、さっくんはさ、わたしと木田くんが二人っきりでボート乗ってるのいやじゃないの?

 

佐伯   

うん、まあ、ちょっと、いやだけど、

 

木田くん 

あ、うん、嫌なら、うん、

 

ともみ  

木田くんちょっと黙ってて、

 

木田くん 

あ、そうね、

 

ともみ  

え、いやだけど、何?

 

佐伯   

何?って、言われても、

 

ともみ  

え、しんど、

 

木田くん 

あ、これはちょっと、本当みんなしんどいですね、良くない、何もかも良くない、

 

ともみ  

うん、待ってね、木田くんちょっと黙ってて、

 

佐伯   

木田くんにあたるのはやめなよ、

 

ともみ  

あたってないし、

 

佐伯   

いや、俺はさ、木田くんにさ、少しでも楽しんでもらおうと思って、

 

ともみ  

わかってるよ、そんなこと、でも、木田くんに楽しんでもらおうと思ってるからって、わたしのこと全然考えてなくない?、え、楽しくないよ、木田くんも楽しくないよ、今、ねえ、今、楽しい?

 

木田くん 

うーん、ま、あのう、楽しくはないですね。

 

ともみ  

ほらあ、楽しくないんだよ、

 

木田くん 

今すぐ自分って存在が消えてなくなって欲しいくらい楽しくないです。

 

ともみ  

佐伯くん、あのね、違うのよ、そんな気の遣い方をされても楽しくないのよ、わかる?、本当の気遣いって、関わらないことじゃない。それこそ一番の気遣いよ、人って関わり合うだけでかなり気遣うわけよ、だったら関わらないことが一番じゃない、え、そう思わない?

 

木田くん 

うーん、ま、そうかもしれませんね、

 

ともみ  

佐伯くん、木田くんに楽しんでもらおうってしてるのかもしれないけど、根本的なこと突っ込ませてもらうと、その時点でもう何かがずれ始めてるの、つまり、そうだなあ、フォー食べたじゃん、で、うんまーい、ってなったじゃん、で、このうんまーいって、自然に出るからいいわけじゃん、うんまーいって言わなきゃ言わなきゃってフォー食っても全然楽しくないじゃん、あ、例え下手だね、うーん、なんだろう、楽しまなければいけないってなってる時ほど、しんどいことはないわけよ、自然と起こるのを待つしかないわけよ楽しさってのは、え、なんの話だっけ?、いや、もう、わたしたち、木田くんに関わらない方がいいじゃないかと思うの、ごめんねごめんね、木田くん、でもでもでもでもね、わたしたちには木田くんを救えないよ、成仏させてあげること、できないよ、だってめっちゃわたしたち、木田くんに気を遣ってるもの、木田くんも私たちに気を遣ってて、で、気を遣わないことなんて、おそらく人類金輪際無理な話で、

 

佐伯   

そんなことなくなくない?って、そんな寂しいことってあるかって、そんな寂しいことあってたまるかって、俺思ってるんだけど、俺、言えなくて、何も言えなくて、夏、じゃないんだけど、むしろ冬なんですけど、ああ、ああ、あああ、

 

ともみ  

って佐伯くん、泣いちゃって、

 

佐伯   

ああ、ああ、ああ、

 

ともみ  

ごめん、ごめんごめん、泣かないでよ、こんなとこで、

 

木田くん 

ブグう、ブグうっ、ブグうっ、

 

ともみ  

って、なんか木田くんも泣き始めて、顔上にあげて、ブグうっ、ブグうっ、ブグうって、ってあんまり人類とかが発しなさそうな類いの泣き声聞いてたら、わたしもなんか、う、うぐ、泣けてきて、う、うぐ、うわーはあー、あわーはー、

 

佐伯   

ああ、ああ

 

木田くん 

ブグう、ブグうっ、ブグうっ、

 

ともみ  

ああーはあーーわああーーー、って、三人で、アヒルボート乗り場の前で大声出して泣いてて、みっともないったらありゃしないんだけど、え、なんでわたし泣いてんだろ、自分でもなんで泣いてるのかわからないんだけど、悲しいこと言ったかもしんないって、人と関わらない方が気を遣わなくて済むって、そんな当たり前すぎること、そんな悲しすぎること、なんで言っちゃったんだろう、それは木田くんに対してだけでなく、佐伯くんに対しても同じってことになるんじゃないかって思っちゃったってことなんだけど、

 

佐伯   

そんなわけなくなくない、そんな寂しいわけなくなくない?

 

ともみ  

あるあるあるよ、残念だけど、って、これは口にしなかったんだけどね、

 

佐伯   

俺、このまま死んでくんじゃないかって時々思うんだよね、俺、このままでいいのかって状態だけがずっと続いてる感じするんだよね、体力の話ね、いかに体力を使わないかってところに、歳とってくると、重要なファクターとしてあって、でも待って、もう一回、もう一回だけチャレンジさせてくれない?

 

ともみ  

チャレンジ?

 

あや   

ほうらあ、あーしもとをみーてごらんー、これがー、あなたの、歩む道ー、

 

あや、ともみ  

ほうらあ、前を見て、ごーらんー、あれがー、あーなたのみーらいー、

 

ともみ  

え、これがわたしの未来なの、

 

あや   

って、カラオケの一番狭い部屋で、前がどこかもわかんないってぐらい狭い部屋で、扉についてるちっさい窓っていうか、ガラス部分から見える汚そうな廊下を見ながら、ともみは笑ってるのね、

 

ともみ  

え、これがわたしの未来なの?、わたしの未来、カラオケの廊下?、べっとべとしてそーう、

 

ともみ、あや  

あはあはあはあは、あはあはあはあ、

 

ともみ  

って、こういうの、こういうくだらない、なんだろう、やり取りが、木田くんには必要なのかもしれなくてね、

 

あや   

って、急に真剣な顔してるの、ともみ、カラオケで、カラオケなのに、わたしたちは、歌を歌っていない時間があって、モニターで、ダムチャンネルをご覧の皆さん、ってカラフルな、色とりどりな服を着た女の子たちがグループ名を言いながら、こう、手を顔の前でわちゃわちゃ動かしていて、わたしたちはノリで、なんとなくのノリでカラオケに行こうってなったんだけど、学生の頃はもっと歌いたくて歌いたくてしょうがなかったはずなのに、エンドレスでノンストップでオールナイトで歌い尽くしていたはずなのに、わたしたちは、4、5曲歌ったら歌うのをやめちゃって、そのアイドルたちが、色彩がキラキラした画面のアイドルたちが2択チャレンジってコーナーをしているのを眺めていて、可愛いって褒められたいか、きれいって褒められたいか、お手元に配られた札をあげてください、って本当どうでもいいコーナーを本当どうでもいいと思いながら、ともみの話を聞いていて、あ、いや、聞いていて、っていうか、正直、あまり聞いていなくて、気づいた時に、

 

ともみ  

鍋パしない?

 

あや   

ってともみは言っていて、え、鍋パ?

 

ともみ  

鍋パ、あやの家で、

 

あや   

え、わたしの家で?

 

ともみ  

ほら、わたしも、佐伯くんも、一人暮らしだから、宅飲みに向いていないし、

 

あや   

え、だからって、わたしの家?、で、鍋パするの?、なんで?

 

ともみ  

木田くんに、

 

あや   

え?木田くんも来るの?関わらない方がいいって話してなかった、

 

ともみ  

佐伯くん、あったかい雰囲気味わってもらいたいんだって、

 

あや   

佐伯くんって言うたびに、ともみは少し、ダムチャンネルの方を見ていることに気づいていて、それくらい、ダムチャンネルって、人を惹きつける魔力があるんだけどね、

 

ともみ  

木田くんに、

 

あや   

気遣いのカケラもないな、なんでわたしの家で鍋パ?、話飛躍しすぎてわかんないんだけど、

 

佐伯   

気を遣わない鍋パがしたい、

 

ともみ  

って、言うのね、佐伯くん、

 

山下、あや  

気を遣わない鍋パ?

 

木田くん 

あのう、すみません、僕なんかのために、本当、申し訳ない、

 

山下   

ええー、それ、僕も参加するの?

 

あや   

うん、ってことになっていて、

 

佐伯   

人数いた方が楽しいじゃない、っていうか、あやさんの夫さん、楽しそうだし、

 

あや   

って、佐伯くんが言っているらしくて、

 

山下   

初対面の人いる方が気を遣うでしょ、

 

ともみ  

わたしだって初対面みたいなもんだし、

 

山下   

俺、関係ないのに、

 

あや   

わたしだってないよ、

 

山下   

うわあああ、やだなあああ、せっかくの土曜の夜、妻の友達カップルとよくわからない幽霊と鍋パをすることになっちゃったーー、、うわああああ、アマプラで相席食堂見てたいなああああ、って、妻に言うこともできず、

 

ともみ、佐伯、木田くん  

お邪魔しまーす。

 

山下、あや  

いらっしゃーい、

 

佐伯   

どうも、佐伯です、いやー、突然すみません、あ、間違えた、今日、謝まるの禁止で、謝るって、謝る方も謝られる方も互いに気を遣うじゃないですか、今日、謝るの禁止ね、気を遣わない鍋パがコンセプトなので、気を遣わない関係性で気を遣わないラフな気の遣わなさで、楽しませてもらえたらと思います、ってなわけで、いきなりですが、靴下脱ぎまーす、俺、靴下嫌いなんだよね、締め付けられる感じ、好きじゃなくて、へえー、いい部屋だね、でもちょっと、あれだね、頑張って掃除しました感出てるね、いいのにいいのに、気を遣わなくて、こっちは手土産なんか持ってきてないし、鍋の具材も持ってきてないんだから、

 

山下   

え、ああ、そうなんだ、まあ、ゆっくり楽しんで行ってくださいな、なんか飲みます?

 

佐伯   

え、あ、じゃあビールもらっていいですか?

 

山下   

ああ、ビールね、

 

佐伯   

ともみんは?

 

ともみ  

わたし、ハイボール

 

あや   

あ、わたしも、

 

木田くん 

じゃあ僕も、

 

山下   

あ、ハイボールは二つしかありませんね、

 

木田くん 

あ、じゃあ僕大丈夫です、なんか違うので、

 

佐伯   

ダメダメ、木田くん、ダメダメ、今のダメ、気を遣ってるじゃん、ダメダメ、失格、あのう、あれよ、気を遣わなくていいんだから、俺こそハイボール飲みたいって精神でいればいいんだから、

 

山下   

やー、でも現実問題、ハイボール二個しかないんですが、

 

あや   

じゃあわたしハイボールじゃなくてもいいよ、

 

佐伯   

だからそれ、気を遣ってわたし、ひきますっての、なしにしようよ、

 

あや   

いやこれは気を遣ってるわけじゃなくね、わたし、本当になんでも良くて、

 

山下   

じゃあ、ほろよい、ね、ほろよい、はい、

 

ともみ  

あ、ほろよいいいなー、わたしもほろよいにしようかな、あります?

 

山下   

あ、ないですね、、買ってきましょうか?

 

佐伯   

買ってこなくていいですよ、そんな気遣って買いに行くことないんですから、

 

ともみ  

まあ、じゃあとりあえずハイボで。

 

あや   

鍋もできてるよー、

 

佐伯   

ありがたいなあ、作ってくれてたんですね、

 

ともみ  

ありがとうー、

 

あや   

チゲ鍋でーす、

 

ともみ  

うわあああ、うまそーう、

 

佐伯   

待って待って、今の、ちょっと、過剰じゃない?

 

ともみ  

え、何?

 

佐伯   

今の、うまそーう、はちょっと過剰すぎない、

 

ともみ  

過剰じゃないよ、うまそうだからうまそうって伝えただけなんだから。

 

佐伯   

あー、そっか、ごめんごめん、あ、謝っちゃった、

 

山下   

あ、音楽かなんかかけます?

 

佐伯   

あ、もう、そう言うの気にせず、気を遣わなくて結構ですから、

 

山下   

乾杯とかします?

 

佐伯   

そう言うのもなしでなしで、乾杯とか、気遣いの塊じゃないですか、気遣いの塊をチーンって音鳴らしてるようなもんじゃないですか、乾杯なんかいいんですよ、各々好きなタイミングで飲む方が、よっぽど楽しいじゃない、ねえ、

 

木田くん 

あ、うん、ま、えっと、そうですね、

 

山下   

いやー、でも、しまらないなあ、なんか、乾杯ぐらいしときたい感じしますけどね、

 

木田くん 

あ、あの、えっと、皆さん、取り分けますよ、鍋、

 

佐伯   

いいのいいの、取り分けなんて気遣いの塊絶対にしないで、取り分けとか、気遣いの塊を崩して細かくした気遣いのカケラをミキサーかけて液状にどろっどろにしたのを皿に分けて配ってるようなもんじゃない、大丈夫大丈夫、各々好きな分、好きな量、食べてよ、食べてよって、俺が作ったわけじゃないけど、じゃ、ま、食べますね、いただきますー、、あち、はふ、うん、うん、、かっら、

 

ともみ  

佐伯くん佐伯くん、気を遣わないってのと失礼なことをするってのは違うんじゃないかと思うんだけど、

 

佐伯   

あ、ごめん、あ、謝っちゃった、

 

山下   

あ、いいよいいよ、今日は、ね、気を遣わない会なんだし、

 

佐伯   

ですよね、あ、あれだなあ、なんか、ちょっと、暑いなあ、

 

山下   

あ、暖房、強いかな、

 

あや   

わたしたち、結構寒がりなんだよね、

 

ともみ  

あ、そうなんだ、え、肉ばっか食うのやめてくれない?、みっともない、

 

佐伯   

え、俺そういうのも気にしない会だから、木田くん、もっと、食べなよ、

 

木田   

え、えっと、へえ、ごめんなすって、

 

山下   

あ、なんかテレビとかつけます?

 

佐伯   

つけたければつけてもいいですよ、つけたくなければつけなくてもいいですし、

 

ともみ  

あれ、なんか、この会、どうなんだろう、

 

佐伯   

え、何?

 

ともみ  

なんか変な方向に進んでる気がするんだけど、

 

佐伯   

へー、まあ、どうでもいいじゃない、気にしない気にしない、

 

山下   

あ、テレビ、つけますね、相席食堂、

 

佐伯   

ああー、どうぞどうぞ、お好きなんですね、相席食堂、

 

あや   

木田くん、もっと食べたら、全然とってないじゃん、

 

木田くん 

え、はい、え、うん、まあ、気にせずで気にせずで、

 

山下   

あはははははー、

 

佐伯   

山下さんってなんの仕事されてるんですか?

 

山下   

ディーラーですよ、しがない、しがないディーラーですよ、

 

佐伯   

ディーラーって、あの?、ディーラーって、あの、ディーラーですか?

 

山下   

あー、そうですね、あの、ってのが、何を指してるのかはわからないですが、多分そのディーラーであってますよ、え、佐伯さんは?

 

佐伯   

僕はー、うんこみたいなとこで働いてます、

 

ともみ  

ちょっと、

 

佐伯   

うんこみたいなとこで働いて、うんこみたいなことしてるやつからうんこうんこ言われて、うんこうんこした仕事してますよ、はははは、

 

ともみ  

やめてよ、チゲ鍋が血便に見えるじゃない。

 

山下   

へー、ともみさんは、何されてるんですか?

 

ともみ  

え、わたし?、わたしの、仕事?

 

山下   

ま、仕事でも、普段してることでも、なんでも良いんだけど、

 

ともみ  

わたし?、わたし、はー、パナソニック

 

山下   

パナソニック

 

ともみ  

そうそう、パナソニック

 

山下   

え、パナソニックって、あの?、あの、パナソニック

 

ともみ  

いや、あの、パナソニックではなくてね、もっとなんだろう、違うパナソニックなんだけど、なんて言えば良いんだろう、

 

佐伯   

でもパナソニックパナソニックだからなあ、

 

ともみ  

あ、うん、まあでも、パナソニックですよ、なんだかんだ言ってもパナソニックですよ、

 

山下   

ああー、へえー、すごいなあ。あ、ほら、このエアコンの電池、パナソニックですよ、

 

ともみ  

あ、そのパナソニックではないんだけど、

 

山下   

あ、このパナソニックではないんだ、

 

木田くん 

いやあ、すごいなあ、ディーラーに、うんこに、パナソニックですか、すんごい集まりですねえ。

 

佐伯   

え、木田くん、本当にすごいと思ってる?

 

木田くん 

え、思ってますよ、

 

佐伯   

本当にすごいと思ってないとすごいって言っちゃダメだよ、

 

木田くん 

あ、はい、それはえっと、すごい、そうですね、すみません、全然、全然すごいって思ってないです、

 

佐伯   

だから謝っちゃダメなんだって、

 

ともみ  

ちょっと佐伯くん、もっと、なんだろう、柔らかい雰囲気で行かない?、あのう、わたしたち、ずっと審査されてるみたいで落ち着かないよ、

 

佐伯   

ああ、ごめん、あ、謝っちゃった、いいやいいや、一旦俺、あれしないね、しばし、しばしご歓談を、

 

あや   

って、この会、始まりからなんか不安な雰囲気を醸し出しつつ、わたしたちはチゲ鍋をチマチマとつつきながら、当たり障りのない会話をしていて、

 

ともみ  

脳の中には運動野って運動感覚を司る領域が、中心前回ってとこにあるんだけど、その辺の頭皮いじりながら身体動かすと、可動域が変わってくるんだよね、これ、本当すごくて、

 

あや   

っていつもの、動物豆知識コーナーが始まりつつ、

 

山下   

ははー、千鳥はすごいとこまで来たよね、僕の小学校の頃、あ、僕関西出身なんだけど、せやねんってトミーズのお昼の番組にずっと出てて、ずっとロケしてるのを見てきたから、僕、

 

ともみ  

ちょっと、まてい、木田くん、木田くんの話、全然できてなくなくない?、もうちょっと木田くんに話振った方が良くなくない?、

 

佐伯   

いやでもね、そういうのが気遣いってのに繋がるわけだから、自然と木田くんが話したくなったら話をするでいいんじゃないかと思うわけで、

 

あや   

木田くんは、特に会話に加わってないってわけではないんだけど、めっちゃ加わってるって感じでもなく、

 

木田くん 

ほお、へえー、はあ、そーれは、一本取られましたね、ほおー、へえ、はあ、そーれは今世紀始まって以来の衝撃ですなあ、

 

あや   

ってわたしの印象では木田くん、こういうことばっかり繰り返してて、

 

山下   

僕が初めて千鳥きてるなって思ったのは、2005年のM1なんだけど、わしにはわからんアホじゃけえ、ってフレーズを何回も繰り返すってネタがあったのね、これ見た時、すごーって、新しーって、革命だなって、

 

木田   

ほおー、そーれは今世紀始まって以来の衝撃ですなあ、

 

あや   

ちょっと、千鳥の話はもういいんじゃない?

 

山下   

え、なんで?

 

佐伯   

いや、千鳥の話、もっとしてくださいよ、気を遣わずに、だけど、気を遣わずに思ったこと言わせてもらうと、あまりみんな漫才方面に詳しくないので、つまんないっちゃつまんないですね、

 

山下   

ああー、、そうですか、

 

ともみ  

佐伯くん、今のはないんじゃない、

 

佐伯   

え、何?

 

ともみ  

や、だって、考えて見なよ、つまんない話をつまんないって言われたら誰でも傷つくじゃない、

 

山下   

あ、うん、いいですよ、ともみちゃん、その話、深掘りしなくて、

 

ともみ  

いや、ダメでしょ、つまんない話でもつまんないってまで言わなくてもよくなくない?ってわたし思うんだけど、それは気を遣わないってことと関係なくなくない?って、え、だってつまんない話をつまんないって思っても、つまんないって言わなきゃいいだけなんだから、

 

山下   

うん、つまんないつまんないって言われすぎるのがもうすでに辛いのでその話、本当、いいですよ、スルーしちゃってください、すみませんね、つまんない話しちゃって、

 

佐伯   

あ、いいんですよ、じゃんじゃんしちゃってこう、つまんない話、気を遣わずじゃんじゃん、ね、木田くん、つまんない話、聞きたいよね、

 

山下   

いや、だからね、つまんない話つまんない話ってそもそも言わないでよ、

 

ともみ  

ごめん、山下さん、ごめんね、佐伯くん、変なとこスイッチ入っちゃってて、

 

山下   

うあ、そうね、どうなんだろう、気を遣わずに言っちゃうと、この会かなり無理あるくないですかね?

 

佐伯   

え、なんですか、

 

山下   

気を遣わないって、やりたいことそのまましちゃう、思ったことそのまま言っちゃうってなってくるってことですよね、こーれは、かなり、しんどいですよ、

 

佐伯   

あ、え、そうですか?すみません、パン食っていいですか?

 

山下   

ほらこういうとこでしょ、今チゲ鍋食べてんだから、パン食うのってどうなの?人間気遣ってなんぼでしょ、気遣わな、やってけへんでしょ、人間関係、円滑に進まへんでしょ、ディーラーの仕事なめんなや、メロンパン食うなや、

 

あや   

関西弁出てるよ、ちょっと、そーうだな、みんな、一旦落ち着こう、楽しく行こうよ、ね、ね、

 

ともみ  

ね、もう、マジで面倒くさくなってきた、

 

あや   

え、何?

 

ともみ  

ちょっと一瞬昼寝していい?

 

佐伯   

いいよ、

 

あや   

ダメでしょ、

 

山下   

ダメでしょ、え、気遣いしないとか無理あるでしょ、人の家勝手にドスドス入ってきて、あと鍋代と酒代は絶対払えよ、そういうとこはちゃんとしとこうよ、

 

佐伯   

わかったわかった、払う払う、でも、あれだなあ、、、全然楽しくないなあ、え、木田くん、どう?

 

  間。

 

木田くん 

もう、あれですね、もう、やですね。

 

佐伯   

なんだよそれ、やなのはこっちだよ、全部お前のためにやってんだろ、

 

木田くん 

そのお前のためにってのが無くならない限り、エッキー、わたしとあなたは対等じゃないんすよ、

 

佐伯   

は?、なんだよそれ、ふざけんなよ、お前が助けてって言ったんだろ、助けてあげたいなって思ったから、こうなってんだろ、

 

木田くん 

あ、えっとお、そのなんだろ、もっと、あっとお、その、なんですかね、あー、サーむい、弱ったな、どっちから話せばいいだろう、うっと、そっと、えっと、そうね、だから、関わらないでくださいって、わたし、叫んだんですよ、あ、えっと、そうだなあ、わたしの世界はわたしの世界で完結できてたはずなんですよ、だのに、えっとお、この、違うんですよ、完結してたことに対してわたしは、うっと、おそらくですね、求めてしまったことに対して、うっと、そうだな、いや、待って、こう言う言い方は良くないかもだが、わたしには前提がない、え、そうそうそう、前提がないんですよ、そのう、いや、待ってください、前提がないってのはあなたを傷つけたいがために言った言葉じゃなくてですね、あ、そうだなあ、つまり、エッキーとわたしの間で、ともみさんとわたしの間で、あやさん、山下さんとわたしの間に前提がそもそもないのであります、ああああ、サーむい、困った、どうしようもなく存在しちまってる、弱った、あ、あ、あああ、あああああ、いつまでこの苦悩は続くのでしょうか、永遠にこの悲しみは尽き果てないものなんでしょうか、ああああ、さむい、やっちまったなあ、馬鹿なことを求めるんじゃなかったですよ、えっとお、そうです、言いましたね、わたしには趣味があるんです、そうです、お恥ずかしながら、わたしには、あの時差式信号機の押しボタンをカチカチ押すのが趣味です、くっだらないかとお思いでしょうねえ、は、は、は、しかしながら、えっとお、そのなんだ、もっと、うっと、わたしにとっては、きっとそっと、そういう、完結した世界から、えっと、、なんだ、逃れなければ、そんな、あっと、さむい、ちょっと、上着かなんか恵んでくれませんか?、サーむいんですよ、ひどく、

 

山下   

あ、暖房あげましょうか?

 

佐伯   

完結した世界って言葉を木田くんは使っていて、その言葉に対して俺、なんかやっぱ嫌悪感があるんだけど、

 

山下   

あ、毛布、って言うかブランケット、貸しますよ、

 

佐伯   

この、山下って人、きっと、そういう世界に生きてるのかもしれないな、とも思うんだよね、よく知らないけど、

 

山下   

あ、なんだろう、チゲ鍋もっと食べたらあったかくなるんじゃないですか?

 

あや   

あーー、って、なんかそういう、優しさってので、本当はもっとどうにかなることだらけなはずなのに、あーー、って、夫の優しさが、今この状況下において、空回りしてるようにも見えて、

 

山下   

あ、あったかいもの飲んだ方が良くないですか?お湯?お湯、持ってくるよ、

ともみ  って、山下さんは寒がっている木田くんに対して、人間に対するように介抱してるんだけど、うんそうね、みんな人間人間してるって不思議に思ってんだけど、やっぱ木田くんって幽霊なんだってこの時わたし、思ったのね、やっぱりこの雰囲気は異常だって、人間の様態じゃないもの、

 

木田くん 

ま、ま、ま、大丈夫ですよ、わたし、こういうの慣れてますから、

ともみ  つまりこの時のお湯飲んでる木田くんって言うのがね、あまりに存在してるように思えたってことなんだけど、言ってる意味わかる?、つまり、そうだなあ、一般的に考える幽霊って薄めじゃん、透けてそうで朧げそうじゃん、なんか、そう言うのが幽霊っぽいじゃん、違うのよ、木田くんに関しては、むしろ逆、めっちゃいる、輪郭がはっきりしていて、内容量がみっちり詰まってそうで、つまり、めっちゃいるの、今の木田くん、めっちゃいて、普通の人の三倍くらいみっちりいるって感じで、めっちゃ存在してるって感じで、ね、そんな感じしない?

 

あや   

わかるよ、なんとなく言ってる意味はわかるよ、でも人間でもそう言う人いるよね、めっちゃ存在しちゃってる人、どこがどうって言えないんだけど、めっちゃ存在しちゃってて、うわ、いるいるいるー、ってなる人、わたしらのサークルで言ったら、まっちんとか

 

ともみ  

あーーー、まっちん、懐かし、まっちん、わかるわかる、そんな感じだよね、まっちん、

 

木田くん 

あ、もっと、楽しい雰囲気が欲しいんですけどね、

 

佐伯   

木田くん、もう俺ら、君を心から楽しませるなんてことは無理かもしれないよ、

 

木田くん 

違うんすわ、楽しませるとか、いいんすわ、楽しい雰囲気を味合わせてくれたらいいんすわ、

 

ともみ  

ってほら、急に性格が変わったりするじゃん、木田くんって、

 

木田くん 

え、笑えば良くないですか?、楽しい雰囲気ってイコール笑顔じゃないっすか、とりあえず、笑ってみませんか?、ずっとえっとあっとそっとずっともっとほっともっと、、思ってたんですけど、みんななんで笑わないんですか?

 

佐伯   

いや、そりゃあ、ほら、気を遣わないって会なんだから、無理して笑っても意味ないでしょ、

 

木田くん 

いや、無理して笑えよ、あはははははは、無理して笑えよ、あははははは、身体から笑わないとなんも変わってかねえでしょ、ね、思いませんか?

 

山下   

あ、うん、まあ、そうですね、

 

木田くん 

はい、笑って、

 

山下   

え?

 

木田くん 

はいほら、笑って笑って、

 

山下  

え?今ですか?

 

木田くん

今今今今、はいほら、さん、はい、

 

山下   

あははははははは、

 

木田くん 

あれ、相席食堂見てた時の笑い方と違くない?

 

山下   

あははははは。あれ、おかしいな、どうやって、笑えばいいんでしょうか?

 

木田くん 

何見てんだよ、

 

あや   

え、見るでしょ、

 

木田くん 

笑ってくださいよ、一旦、え、一旦みんなで笑っておきませんか、ほら、一旦笑って、

 

あや   

やだよ、

 

木田くん 

え、笑ってよー、なんだよ、笑うだけじゃんか、いいじゃんか、笑ってよー、

 

あや   

え、本当、やだ、本当に、やなんだけど、

 

木田くん 

あ、すみません、申し訳ない、やっちゃった、あ、ダメだダメだ、こりゃダメだ、ごめんなさい、

 

佐伯   

木田くん、謝っちゃダメだよ、

 

木田くん 

あ、もう、はい、すごく、なんだろう、はい、

 

あや   

あ、もうなんだろう、見るからに、この会、なんなんだろう、多分、みんな思ってたと思うんだけど、

 

木田くん 

あはははあはははははあ、傑作だなあ。

 

あや   

って木田くんは、ともみがアフリカなんちゃらガエルのなんちゃらゲノムについてともみ以外誰一人ついて行けていない話をしている時に急に笑い始めて、

 

木田くん 

あはははははああっははははははははははははははははははっははは、

 

ともみ  

って笑い声は、やっぱり幽霊のそれではないかと思うんだけど、

 

山下   

いや、どこが幽霊やねん、変な人に絡まれただけやんマジでこれ、って、正直僕はずっと思ってて、、、外、歩きません?

 

みんな(山下以外)  

え?

 

山下   

やだったんだよね、俺の生活空間で、変な人と変なチゲ鍋食いながら、楽しくもない変なやりとりしてただただ休日の大事な時間流れてくの、耐えられなかったんだよね、外、歩きません?、イコール、帰ってくれません?、って言いたくてしょうがなかっただけなんだけど、そこは大人として、あと、この閉鎖空間を打破するワンアイデアとして、出ちゃったんだよね、外、歩きません?

 

あや   

外、寒くない?って内心思ってたんだけど、

 

ともみ  

うん、まあ良いかって、内心もっとカタツムリはコンクリートを食べて成長してるって話をしていたかったんだけど、うん、異物、もっと異物異物したものを取り入れたいのね、わたし、って言ってもコンクリートを食べたいって話じゃなくてね、

 

佐伯   

って、俺たち、歩き始めるんだけど、あ、雑炊食うの忘れてたな、

 

あや   

その時には木田くん、なんも喋んなくなっていて、

 

ともみ  

え、むしろわたしめっちゃ喋ってた印象があるんだけど、焼き鳥の串から肉をはずすかどうかについて、めっちゃ喋ってなかった?

 

あや   

え、そうだっけ?

 

山下   

正直、一直線に駅まで向かってさよならしたかったんだけどね、

 

あや   

わたしたちにとってはいつもの住宅街で、街灯がポツンポツンて灯っている、善福寺川の川沿いを歩いていて、

 

ともみ  

幽霊と川って相性よくなくない?

 

あや   

うん、すごい幽霊感あるね、

 

ともみ  

フォーにレモンって相性よくなくない?

 

佐伯   

あー、うん、よいよいよいね、テレビ見て良い?

 

あや   

善福寺川沿いを歩きながらも、やっぱり、私たち五人は、すごい楽しいって風でもなくて、

 

佐伯   

ヘーイ、ヘイシリ?、だめだピコンともならない、

 

ともみ  

なんで、わたし、この人と一緒にいるんだろ、

 

あや   

ってともみ、思ったらしいのね、ある日、

 

山下   

あ、うん、ちょっとそこの耳かきとってくれない?

 

ともみ  

つまり木田くんに対してなんであんなに彼はムキになってたかってことなんだけど、

 

あや   

はい、耳かき、だけども、そこまですごく、寒いって感じでもなくて、

 

ともみ  

佐伯くんは、わたしに対して、何か諦め始めてるようなところがある気がして、

 

あや   

しようか、耳かき?

 

佐伯   

お電話ありがとうございます、株式会社うんこ、うんこ販売促進サービス課のうんこが承ります。

 

山下   

耳かきっていうか洗濯物なんだけど、タオルはタオルで全部一気に洗ってくれない?

 

佐伯   

学んだんだよね、こういうの、逃れられないんだなって、気を遣わない関係性なんてつくろうと思ってつくれるもんじゃないでしょ、

 

あや   

え、わたしは、わたしたちのやりとりは、気を遣わない関係性なわけ?

 

山下   

あー、ちょっと背中マッサージしてくれない?

 

あや   

えー、やだー、ってやだーってちゃんと言えるのは確かなんだけどもね、

 

ともみ  

って、いうか、なんと言うか、そういうことでもなくなくない?、そんな単純なことではなくなくないかな、

 

佐伯   

え、じゃあ、別れるの?

 

ともみ  

って、佐伯くんの反応はこれ。どうですか?

 

あや   

あー、だね、あー、なるほど、あーー、確かに、ああーー、そういうこと、つまりわたしは、夫に対して、なんか諦めている、諦めているから、気を遣わずにいれるわけだ、

 

山下   

最近マジで相席食堂しか面白いもんないもんね、

 

あや   

ね、だからテレビもう消そうよ。

 

ともみ  

人間ってずっと同じもの見てるとストレス感じるわけ、だから五秒ごとに視線を変えるピース瞑想ってのが開発されていて、え、本当簡単だからやってみて、

 

あや   

って、ともみは、諦めきれないでいる子なのかもしれなくて、

 

山下   

ほんとこれ、なんの話?

 

あや   

え、なんの話なんだろう、

 

佐伯   

善福寺川沿いをしばらく歩いていて、ふっつーの住宅街ふっつーの街並みを歩いていると、環八通りのでっかい交差点にぶつかるんだけどね、

 

山下   

あはははははははあ、飛んじゃダメでしょ、

 

あや   

わたしはこの子を、すごく大きな優しさで、包み込んであげたいと思ったのね、

 

山下   

あはははははっは、はあー、腹ちぎれる、

 

あや   

ダムチャンネルをご覧になってる時の話ね、

 

佐伯   

その時、カチカチカチカチ、って音が聞こえてきて、なんだろうって思ったら木田くんがあの、押しボタン、押してるんだよね。

 

山下   

ちょっと待てい、

 

ともみ  

それで、わたしたち、いったん別れたの、

 

あや   

え、別れたの?

 

佐伯   

でもさあ、またすぐ会いたくなるんだよね、

 

ともみ  

で、何回もまた会ってるんだけど、

 

あや   

ええー、それどうなの?

 

佐伯   

カチカチカチカチ、て木田くん、無言で押しボタン押してて、、

 

あや   

え、無言だったっけ?、すんごい喋ってなかった?、いやあ、この押し加減がたまらんのですよ、幼少の頃から、これにだけは目がありませんでしてねえ、アハアハアハ、って、

 

山下   

あはははははっは、はあー、多分僕、疲れすぎてるんだよね、

 

佐伯   

あー、わかる、身体をセーブすることにしか頭回んないよね。

 

山下   

そうそう、つまり、僕、妻の話ほとんど聞いていないんだよね、昨日スマホでなんらかの動画を見せられながら、△△△△、××××、って漫画の吹き出しみたいに妻が喋ってた言葉、一文字もわからず相席食堂見てて、

 

あや   

△△△△、××××、△△△△、××××、

 

佐伯   

お電話ありがとうございます、株式会社うんこ、うんこ販売促進サービス課のうんこが承ります。社長ですか?、社長は今、うんこしてまして、すっごく社内、うんこなんですよ、

 

あや   

だからつまり良い人ってのは間違いないのよね、

 

ともみ  

木田くんの話?

 

あや   

あ、木田くんの話じゃないんだけど、

 

ともみ  

木田くんの話して、

 

佐伯   

木田くんの話ししてあげて、

 

ともみ  

っていうかわたしの話もっとしてくれない?

 

佐伯   

え、俺、今めっちゃともみんの話してるんだけど、

 

あや   

つまり申し分ないし、申し分ないくらい聞き分けいいし、申し分ないくらい話聞いてくれるし、申し訳ないくらいこっちの要望に答えてくれるんだけど、その申し分なさが、なんだろう、申し分なさがなんなんだろう、あ、木田くんの話じゃなかった、

 

山下   

だからこれ、本当なんの話なの、寝る前にしないでよ、ご飯食べてる時にしてよ、もっとベストタイミングあったじゃん、

 

あや   

あーなるほどね、つまり、気遣いと気を許せるって話はまた別なわけじゃない、私たちは気遣ってないわけでなく、細かく細かく、わたしたちは、こまかくこまかく、気遣わなければいけないことと気遣わなくてもいいことを無意識で△△△△、××××、△△△△、××××、

 

山下   

本当勘弁して、本当、早く寝させて、本当、ちゃんとした言葉喋ってくれない、って、こんなことは絶対言うわけないんだけどね、

 

あや   

え、聞いてる?

 

山下   

うん、聞いてる聞いてる、それでね、その環八通りの交差点で、木田くんが押しボタンを

 

山下、佐伯  

カチカチカチカチカチカチカチカチ

 

佐伯   

するのを俺たち見ていて、

 

あや   

男人二人めっちゃ真剣に眺めてんだよね、そのカチカチ、

 

ともみ  

ね、ハーゲンダッツ食べたくない?

 

あや   

えー、ハーゲンダッツたべたーい、

 

山下   

その六車線の車道を車が通るたびにライトにぴかって照らされるんだけど、木田くん、

 

ともみ  

ヘーイ、シリ、教えてくれません?、わたしたちこのままでいいと思う?

 

佐伯   

ピコンともならないなあ、

 

ともみ  

あ、ヘイって言っちゃってるわたし、ヘイって言っちゃったよわたし、

 

あや   

あーなるほどね、結局、気遣いっていい人ってことじゃん?

 

ともみ  

そうかなあ、

 

佐伯   

いや、わからなくもなくなくないよ、

 

ともみ  

でもいい人を装ってるって言う風にも言えるよね、

 

佐伯   

あ、なるほどね、

 

あや   

でもそれでよくないかなあ、本当に装ってくれるならよくなくないかなあ。

 

ともみ  

そーれは、やだよ、ありのままで、ありのままのあなたとして接してほしいよ。

 

佐伯   

って、多分、俺ら、何回も失敗して、何回も喧嘩して、何回も無言になって、何回も気を遣ってやりたくもない皿洗いしてて、

 

山下   

あー、めっちゃ疲れた、キューピーコーワアルファどこ?

 

あや   

ちゃんと装ってよ、

 

山下   

え、

 

あや   

ちゃんと、装ってよ、

 

ともみ  

て、これは声に出してなかったらしいんだけどね、

 

山下   

ちょっと肩もんでくれない?

 

佐伯   

見えるんだよなあ、完結していくのが、わかんないかなあ?、俺の話、あ、レモンサワー追加でくださーい、

 

ともみ  

わたしの話ちゃんとしてよ、わたしを主語にして喋ってよ、

 

佐伯   

え、聞いてる?

 

山下   

あと、エイヒレと冷やしトマトときゅうりの浅漬けくださいー、

 

あや   

って、ニヤニヤしながらテレビ見てるこの人のこういうとこが、

 

ともみ  

すっごい好きなはずなんだけどね、その曲の出だしがね、って聞いてる?

 

山下   

本当にこれ、何の話?

 

あや   

え、本当何の話なんだろう、わたしいま、何の話を何のために誰に向かってしゃべってるんだろう、

 

山下   

あ、ごめん、

 

あや   

え、なんで謝るの、

 

佐伯   

あ、ごめん筋トレしてた、

 

山下   

あ、ごめん、△△△△、××××、

 

ともみ  

ごめーん、遅くなっちゃって、

 

あや   

おっそーい、何分待ったと思ってるの?△△△△、××××、

 

山下   

ごめん、

 

あや   

謝んないで、

 

ともみ  

すまん、

 

あや   

言い方変えてもダメだよ、

 

佐伯   

ごめん、パン食ってた、

 

ともみ  

って、この時の佐伯くんは、いつにも増して、真剣な目をしていてね。

 

あや   

え、木田くんの話してよ、

 

山下   

え、何?

 

あや   

え、木田くんの話、

 

山下   

え、何?木田くん?って、誰?

 

ともみ  

木田くん?

 

佐伯   

え、木田くん、、って、なんだっけ?

 

あや   

え、木田くんだよ、木田くん木田くん、一緒に鍋パしたじゃん、

 

みんな  

え?

 

  間。

 

あや   

って、みんなあの時の木田くんを、木田くんのカチカチカチカチを忘れていて、

 

ともみ  

夢でも見たんじゃないの?

 

あや   

そんなわけなくなくない?

 

ともみ  

あるあるあるよ。

 

あや   

最後にわたしが見た木田くんね、環八通りの時差式信号機のところで、カチカチカチカチカチカチカチしていた木田くんなんだけど、おっきくなっててね、すごい、なんだろう、東京タワーみたいに、おっきくなっててね。

 

  カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ

 

あや   

って、いうのが、私が体験した怖い話なんだけどね、え、長すぎる?、ごめんごめん、っていうかこれ怖い話なのかな、もはや自分でもこれが怖い話なのか、そもそももはや、よくわかんないんだけど、だけどもね、、席譲りましょうか?、お先にどうぞ、あ、わたし最後のでいいですよ、って言うたびに、今でも聞こえてくるのね、あ、わたしやっとくよ、カチカチカチカチ、今日楽しかったね、カチカチカチカチ、あ、サラダ取り分けましょうか?、カチカチカチカチカチカチカチカチ、しょうがなくない?、どうしようも

 

山下   

あ、ちょっとそこの耳かき取ってくれない?

 

  間。

 

  あや、耳かきを山下に投げる。

  山下、びっくりする。

 

あや   

あ、、、あ、ごめん、あ、、、ごめん。。

 

 

 

  暗転。

 

終わり。

稽古ラストスパート、丹澤さん誕生日。

20231118稽古
 
稲垣
最初っから通しますー。
 
 
  と、いきなり最初から通す。
 
 
稲垣
うん、そうね、速さが大事かもですね、ポンポンポンポン意識飛んでく感じ。その速さの中で自由に演じるってのがベースかなと。
 
 
  とにかく最後をつくる。
 
 
  これまでのシーンの身体をそれぞれの人物で確認していく。
 
歩いてる身体
カラオケのだらけた身体
皿洗いの身体
パスタ食ってる身体
アリに見惚れてる身体
 
 
  
  これらシーン中の身体を1として、その質ベースで進化した状態を作っていきたい。
  便宜的に2と名づける。
 
 
歩いてる身体2
カラオケのだらけた身体2
皿洗いの身体2
パスタ食ってる身体2
アリに見惚れてる身体2
 
等々
 
  これらを徐々に徐々に1から2の動きに移行しながら、最期のシーンをつくる。
  意識がゆるりとパッパと切り替わってくイメージ。
  でも言葉も聞こえるように。
 
稲垣
うん、良い感じになってきましたね、
 
 
  と、通して気になるところを、って思ったけど結局最初からつくり始める。
 
 
稲垣
顔の向き迷うよね、でも結局、みんなそれぞれの言いたいことの重要度が違うってことだと思う、本当に喋りたいことは前にいる人に向かって喋ろうか、熱量高めで。
結局、喋りたいのって人体の不思議あるあるとか、皿洗いがどうのこうのってそう言うことばっかなんだろうなとも思うんだよ。
 
 
  そして、最後まで行かずに終わる。
 
 
覚えていること。
・みんなめちゃくちゃ良くなってきてる。
・幕もやる意味出てきて安心した。
・しかし夜までの稽古は疲れるぞよ。
 
 
 
 
20231119稽古
 
 
  稲垣、鍼の稽古会で遅刻してくる。
  頭いっぱいいっぱいになりながら小道具やらの打ち合わせ。
 
 
  木嶋しれーとはいってきて、
 
 
稲垣
はい、さんはい、ハッピーバースデイとーゆー
 
みんな
ハッピバースデーとーゆー、
ハッピーバースデイディア、丹澤さーん、
 
丹澤
昨日言ったからな、3日前だけどね。
 
みんな
ハッピーバースデイトーユー
 
みんな
おめでとうー、
 
丹澤
ありがとうー、
 
 
  マスカットのケーキを木嶋さんが買ってきてくれる。
 
 
みんな
木嶋チョイス完璧や。
 
 
  あさきさんがケーキ切ってくれる。
  それをみんな見てる。
 
 
秋場
いやあ、切るの上手いなあ。
 
宮尾
姿勢がね、良いよね、姿勢が、
 
あさき
やることないんかい、あんたら、暇なんかい、
 
 
  その言葉をきっかけに、そそくさと舞台準備を始めたりしながら、ケーキを食べる。
  美味い。
 
 
みんな
美味いなあ。
人の誕生を祝うって良いなあ。
マスカットって季節あるの?
 
 
  写真も撮りつつ。
 

 

 

 

 
みんな
美味しかったなあ。
いやあ、美味しかったなあ。
いやあ、めでたいなあ。
 
 
丹澤
終わった感あるな、祝うムード。
 
 
  と、祝い尽くしてから、最後をつくる。
  どうしても即興ベースになるんだが、ここはベースに戻るってとこ、
  ここは絶対するってのを決めてく。
 
  
秋場
アサカナさんのワークショップでやったやつみたいだよね、
 
稲垣
そうだね、あの感じあるよね、モノマネが大事かも、人を真似る、あと、ただ歩くだとか、周り意識して自分がどういたら良いか、ずっとアンテナ張ってて、あと、セリフ、覚え悪いと出なくなるから、難しいけど、ちゃんと言ってる相手想定しながら言う。あと、関係性も大事。自分の動きに夢中になって関係性が生まれなくならないように。
 
 
  と、最後まで行き、休憩後、通す。
 
 
木嶋
面白かった。
 
松丸
最初の方にセリフ合わせした時の方が凸凹感あった。そういうのがもっとあっても良いかと思う。
 
稲垣
めちゃくちゃ面白かったよ。
最期のシーンね、途中止まるまではすごく良かった。
決めてない後半のとこでみんな合うとこあったじゃない、あそこから、3に行っても良いかもしれない。
 
みんな
3?
 
稲垣
2を超えた動き、3、やっぱり、一旦落ち着いちゃうと、難しいからね、それ以上の発展が欲しいなって。
うーん、時間微妙だなあ。
ま、最後だけやって終わりにしようか。
早めに帰ろう。
 
 
  最後の稽古する。
 
 
稲垣
どんどん良くなってる。ただ、気をつけたいのは、身体のスピードにセリフがついていって、早口すぎるところ。もっとセリフ聞きたい。ちゃんと言いたい、伝えたいことに関しては前なり相手なり見てちゃんと言おう。関係性、大事。
 
あと、稽古中言っていないこと。
 
やっぱり面白いのは語りによって歪められた身体感覚ってのが出ることだと思う。
出来事を誰かによって話されることで、本当に起こった出来事かどうかわからなくなる。その最たるものとして、最期のシーン、誰かによって形作られた(生み出された)、変なイメージのその人なんだよね、きっと。そういうのが生まれては消え(忘れられ)、生まれては消え、を繰り返す。みんな自分のことしか喋れないし、自分のイメージでしか人を捉えることができないって、形でおぼろげな、不安定な意識の時間を出せたらなあって思った。
 
 
ま、でも、今日頑張ったね。
お疲れ様ですー。
 
 
役者陣は平日の稽古、よろしくお願いして、次回、仕込み。
空洞にて。

「気遣いの幽霊」関係者紹介8(渡邉さん)

カハタレ第一回公演「気遣いの幽霊」関係者紹介です。
 
プロフィールと今作に関わる共通の質問を全員に聞いています。
お楽しみに。
 
 
今回は照明で参加してくれてる渡邉結衣さんです。
平井くん率いるstudio hiariからの刺客。なんと学生。プロフィールから面白そうな人感が滲み出てます。邪道な照明道とはなんなのか。楽しみです。
 
 
渡邉結衣(照明)
 

 
 
 
●プロフィール
 
日本大学芸術学部演劇学科を来春卒業する4年生。
最近は自分の団体(“みちばたカナブン”と言います)で演劇という営み自体を上演できる方法を模索中。
去年までは劇作・演出が興味のメインだったが、今年に入ってからパフォーマンスと舞台照明への関心が強くなってきた。最近は宇宙論☆講座 照明部の一員として邪道な照明道を開拓する活動をしている。
 
 
 
●好きな食べ物
 
たこ焼きとかお好み焼きとかソースついてるもの、みかん
 
 
 
●今作の見どころは?
 
気まずさとそれにミスマッチな言葉づかいの愛らしさ。あと、音楽ないのに合奏してるみたいなラストシーン!かっこいい。
現実と地続きなテキストが好みです。起こることはへんてこだけど、このひとたちにとっては現実なのだなあという説得力があります。
 
 
 
●気遣いについて思うことは?
 
気まずい場面で気を遣って、わざと空気を読まない、をすると、普通に怒られることが多くて、難しいなあと思います。
 
 
 
●これだけは言っておきたいってことがあったら書き尽くしてください!
 
スタジオ空洞は、副都心線池袋駅からだと多分7分くらいで着くけど、JRとかからだと15分くらい歩きます!お気をつけてお越しくださいね!
 
 
 
以上!
関係者紹介もあと数人。。
 
 
そして良かったら「気遣いの幽霊」来てね。
けっこう売り止め始まってますが、まだ26日(日)は予約できます。迷っている方お早めに是非。